トヨタのカンパニー制はその後成果を上げているのか?池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/4 ページ)

» 2017年11月27日 06時30分 公開
[池田直渡ITmedia]

現場の実体験が組織を変える

中嶋: 3つ目はバリューチェーンの問題です。例えば、米国の顧客の場合、新車を1台買っていただいた後、さらに80万円、100万円ほど払ってドレスアップなどするわけです。しかし残念ながらそこに商品を提供しているのはサードパーティーです。トヨタではありません。エンドユーザーがそういうことを望まれているのに、なぜわれわれは商品を提供していないのか? 「お客さま第一」「お客さまのために」と掛け声で言っている割には顧客のニーズに鈍感だったと。「もしかして販売店のことをお客さまだと誤解しているのでは?」という疑問が生じました。特に商用車の領域は架装も含めて非常にバリエーションが多いのです。調べれば調べるほどわれわれがそれを理解してこなかったことが分かりました。

池田: エンドユーザーの使い方そのものがそれぞれ違いますからね。

中嶋: ハイラックスのようなピックアップトラックはプライベートにも使っていただいていますけど、例えばタイでは、昔はデッキ(荷台)の上にキャノピーを乗せて、安価なSUVとして使われていました。開発当初の時流は確かにそうでした。しかし今は、デッキを外してそこに冷蔵庫や冷凍庫を架装するケースが増えています。タイでは今物流がどんどん進化していて、築地で朝競り落とされた鮮魚が夕方にはバンコクの寿司屋で食べられます。われわれが知らない間にそういう時代になっているのです。そのために冷蔵輸送車のニーズが増えています。そういうことに気付かず、トヨタは荷台がついた状態でハイラックスを売っていました。つい先日、架装業者を訪ねてみたら、ハイラックスのデッキが外して捨てられている現場を見たんです。苦労して組み立てたこのデッキを捨てているお客さんを見てショックを受けました。

池田: それは衝撃ですね。

中嶋: 顧客にとってコストも高くなるんですよ。デッキなしの状態をキャブアンダーシャーシと呼ぶのですが、われわれもアフリカ向けなどにはそういう商品を持っているんです。

 なぜそれを最初から売らずに、顧客にデッキの分の無駄なお金を遣わせていたのか? 今回の冷蔵庫の件もコンペティターのピックアップトラックの売れている地域やモデルを詳細に調べてみたら、トヨタがまったくニーズを満たせていなかったことが分かりました。冷蔵庫を付けるには、冷蔵用コンプレッサーが必要です。競合の製品を調べてみると、冷蔵庫用のコンプレッサーを付けることを想定してダミープーリーが付いていました。プーリーを外してコンプレッサーと交換すればOK。ハイラックスに付けようと思ったら、専用ブラケットを購入して、ベルトを長いものに換えないといけない。しかも先ほど説明したようにデッキの付いた高いモデルを買って、それを外して捨てる手間も掛かる。バリューチェーン戦略どころか顧客にいらないコストを山ほどかけさせていたわけです。

池田: それはとても大きなコスト差ですね。

中嶋: 日野自動車さんに聞いてみると、止まってはいけない商用車のために、24時間のメインテナンス体制がちゃんとあるんです。われわれは工場を出荷したところで仕事を勝手に終了していました。ディーラーも夜間は閉まっています。商用車のバリューチェーンを考えた時に本当にそれで良いのか? クルマが止まるってことは仕事ができないということです。本当に顧客のことを考えるなら、そのニーズを調べて理解して実行する。そういう自由度や優先順位の付け方がカンパニー化によって自分たちの手の内に入ってきました。

池田: トヨタの1番の強みはラストワンマイルだと思います。販売拠点が圧倒的に多い、そこで本気でバリューチェーンを取りにいったら、圧倒的なパワーを発揮できるはずじゃないですか?

個人でも買える市販燃料電池車として登場したミライの泣きどころは大柄なボディにも関わらず4人乗りで室内が狭いこと。その理由は黄色い2つの燃料タンクにある。モノコックボディはこうした付加物のスベースが極めて限られている 個人でも買える市販燃料電池車として登場したミライの泣きどころは大柄なボディにも関わらず4人乗りで室内が狭いこと。その理由は黄色い2つの燃料タンクにある。モノコックボディはこうした付加物のスベースが極めて限られている

中嶋: それについては危機感もあります。例えば総合リース会社に大口で多くのクルマをお買い求めいただいてます。大変ありがたい話ではあるのですが、そこで顧客との接点を持っているのは彼らであって、我々は大口値引きしてまとめて買っていただいて「以上終了」になってます。自動車メーカーはゴールデンウィークに販売店を閉めているのですが、ゴールデンウィークだからこそクルマは走る。総合リース会社は街のモータースと提携していますから、ゴールデンウィーク中でもちゃんと修理のご案内ができる。なのにトヨタはできない。これはとても危険です。

池田: 顧客との接点はメーカーの財産ですよね。例えば、大手サプライヤーはクルマの重要部品の多くを提供してます。技術そのものはある。でも、耐熱性能を何度にすべきか、どういう条件や理由で壊れるかという現場の修理データーはメーカーしか持っていない。彼らは仕様書に決められた数値を守って作るだけで、それがなぜそう指定されているかは分からない。つまり顧客からの声、今で言えばビッグデータを持っていることこそがメーカーの強みですからね。

中嶋: その通りです。それができなくなったら会社はつぶれます。だから、エンドユーザーがどなたで、最後はどういう形態で使われているかを知ることはCVカンパニーの責務です。それを知った上で「ここはサードパーティーに任せよう」と判断するならそれはそれでありですが、そもそも何が起きているか分かっていないのは論外です。

池田: そういう現状認識の上で何をされたんですか?

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