サンフランシスコ「慰安婦像」の背景に、何があったのか世界を読み解くニュース・サロン(5/5 ページ)

» 2017年11月30日 08時00分 公開
[山田敏弘ITmedia]
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議論はできるのか

 インタビューでは、タン氏もこんな話を述べている。「私の家族は戦時中に広東省の村に逃げていました。日本の731部隊はその地域に拠点を置いていた。私の姉2人はその部隊が放出した病原菌に感染して死亡した」

 これが事実だとすれば、肉親を殺された彼女が日本を何としても糾弾したいのは理解できなくもない。インタビューでの2人の発言から伝わってくるのは、2人にとっては、慰安婦云々以上に、日本に対して個人的に深い憎しみを持っているということだ。

 2人は、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の記憶遺産に、慰安婦問題関連資料の登録を目指していた。だがご存じの通り、登録は同機関の国際諮問委員会によって17年10月に保留されたばかり。これについて2人は、多くの分担金を払う日本がカネの支払いでプレッシャーをかけていると批判している。

 シン氏はこうも言う。「大阪からもサンフランシスコの慰安婦像を支持する手紙をたくさんもらっている」

 その上で最後に、「私たちは恐怖を抱いている。安倍が平和憲法を改正して、日本を再武装させたがっているからです」と語る。ちなみに原文は、「We're also scared. Abe wants to change the Peace Constitution and re-arm Japan.」で、安倍は呼び捨てだ。判事をしていた人物なのだから、言葉遣いも意図的だと考えていいだろう。

 そして日本人についてもコメントをしている。「一般の日本人は歴史を本当に知らない。なぜなら日本では教えないからです。過去の過ちは繰り返される可能性がある。私たちはそれが起きないように活動しているのです」

 筆者は第二次大戦の日本軍の行為をすべて正当化するつもりはない。一方で、いつまでも感情的な一方的攻撃を受け続けるのもいかがかと思う。また本当に慰安婦に同情しているのなら、米ニューヨーク・タイムズ紙が指摘しているように、韓国政府が女性を拘束して米兵のために慰安婦として働かせていた事実などに対しても声を上げるべきだろう(参照リンク)。また慰安婦問題についての15年末の日韓合意についてもきちんと言及すべきだ。「ゴールポスト」が合意後に動くなら、はじめから合意など意味はない。

 ならば、やはり議論を続けていくしかないという結論に行き着く。だが少なくともサンフランシスコから活動を行うシン氏とタン氏は、インタビューから察するに、日本の言い分に耳を傾けようという気はさらさらなさそうだ。

筆者プロフィール:

山田敏弘

 元MITフェロー、ジャーナリスト・ノンフィクション作家。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト・フェローを経てフリーに。

 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)がある。最近はテレビ・ラジオにも出演し、講演や大学での講義なども行っている。


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