電化路線から架線が消える日杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/5 ページ)

» 2017年12月01日 06時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]
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そこで「全固体電池」の出番

 電化路線から架線をなくす。実現すれば、大都市の鉄道周辺の景観が変わる。第三軌条方式に頼らずともトンネルを小さく作れる。メンテナンスの費用も減らせる。そして、現在の非電化路線も全て電車に置き換えられ、油煙を吐く気動車、ハイブリッド車両、電気式気動車の時代すら終わる。

 その鍵になる技術の1つが「全固体電池」だ。現在、充電式蓄電池で主流のリチウムイオン電池は電解質が液体だ。いや、ほとんどの電池は内部が液体で、故に乾電池も古くなると液漏れを起こす。これに対して、全固体電池は電解質が固体となっている。液漏れの心配がなく、電極と液体の反応による劣化も少ない。エネルギー密度もリチウムイオンに比べて高く、充電時間も短い。

 米国では振興自動車メーカーのフィスカー・オートモーティブが、ダイソン傘下のバッテリー開発会社サクティスリーの技術を使い、全固体電池搭載の電気自動車を開発するという。ダイソンもこの技術を使い、2020年に電気自動車を発売する計画だ。

 日本ではトヨタ自動車と東京工業大学が共同で全固体セラミック電池を開発している。全固体電池の課題は、電解質に最適な素材が見つかりにくいこと。国内外で全固体電池の開発競争となっていて、現在は高価なゲルマニウムを使った素材の研究が多いという。

 東京工業大学の報道資料によると「既発見の固体電解質に比べ、安価かつ汎用的なスズとケイ素を組み合わせて組成」する電解質を発見できた。これでまた、実用化に一歩近づいたと思われる。

photo 全固体電池はリチウムイオン電池より高出力でエネルギー密度も高い。鉄道車両は運用によって充電時間を確保できるため、高出力で大容量という部分に注目だ(出典:東工大ニュース 超イオン伝導体を発見し全固体セラミックス電池を開発―高出力・大容量で次世代蓄電デバイスの最有力候補に―

 いまのところ、全固体電池に関して過去のニュース、資料を探すと、電気自動車やスマホ向けの話題が多い。自動車に関しては充電時間の短さが魅力的だ。スマホや携帯バッテリーの場合、液漏れなどリチウムイオン電池の事故がなくなったり、航空機の機内預かりが可能になったりすると期待できる。

 鉄道への応用については情報を見つけられなかった。しかし、全固体電池そのものは新しい話題ではなく、研究もかなり進んでいる様子だ。鉄道車両メーカーや研究機関もきっと注目しており、全固体電池車両の開発が始まっていると思う。もし始まっていなかったとしたらかなり遅れている。自動車業界の全固体電池の動向に注目するとともに、鉄道業界の動きにも期待したい。

 都市の鉄道から架線が消える。なんだか、ひとあし早く初夢を見た気分だ。

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。


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