地域医療構想を3つのキーワードで読み解く都道府県はどこへ向かう(1/6 ページ)

» 2017年12月06日 09時00分 公開
[三原岳ニッセイ基礎研究所]
ニッセイ基礎研究所

 団塊の世代が75歳以上を迎える2025年に向けて、地域の医療提供体制を構築するための議論が現在、都道府県を中心に進んでいる。

 これは17年3月までに各都道府県が医療計画の一部として策定した「地域医療構想」に基づいた議論であり、各都道府県は地域の医師会や医療関係者、介護従事者、市町村、住民などと連携・協力しつつ、地域の特性に応じて急性期の病床削減や回復期病床の充実、在宅医療等(※1)の整備などを進めることが求められている。

 しかし、地域医療構想の目的はあいまいである。国は表面上、「病床削減による医療費適正化」の目的を否定しつつ、介護や福祉との連携も意識した「切れ目のない提供体制の構築」を重視しているが、経済財政諮問会議(議長・安倍晋三首相)や財政当局は医療費適正化策の一環として位置付けており、「病床削減による医療費適正化」「切れ目のない提供体制構築」という2つの目的が混在している中、国と都道府県の間で認識ギャップが見られる。

地域医療構想の現状とは……? 地域医療構想の現状とは……?

 本レポートは全4回で地域医療構想の制度化プロセス、都道府県の対応を検証することで、地域医療構想を読み解くことを目的とする。

 第1回は地域医療構想を読み解く総論として、(1)病床削減による医療費適正化、(2)切れ目のない提供体制構築――という2つの目的が混在している点を検討した上で、国の議論が(1)に傾いていることを指摘するほか、各都道府県が策定した地域医療構想の文言を検証することを通じて、都道府県が(1)よりも(2)を重視している点を考察する。こうした検証を通じて、都道府県が向かっている方向性を明確になるほか、政策の目的について国と都道府県の間で認識ギャップが生まれている可能性が浮き彫りになると考えている。

 第2回以降に関しては、「脱中央集権化」(decentralization)、「医療軍備拡張競争」(Medical ArmsRace)、プライマリ・ケアという3つのキーワードを使いつつ、都道府県に期待する役割や対応を論じたい。

※1 「在宅医療等」には介護施設や高齢者住宅での医療も含まれているが、本レポートでは煩雑さを避けるため、在宅医療と表記する。

地域医療構想とは何か

 まず、地域医療構想の概要を検討する。地域医療構想は「病床の機能分化・連携を進めるため、医療機能ごとに2025年の医療需要と病床の必要量を推計し、定めるもの」とされ、医療計画の一部として都道府県が策定した。

 具体的には、患者の受療行動や人口動向、高齢化の進行などを加味しつつ、2次医療圏を軸とした「構想区域」ごとに高度急性期、急性期、回復期、慢性期の4つの病床機能について、現状と25年の需給ギャップを明らかにし、在宅医療の充実を含めて課題解決の方策を考えることに主眼を置いている。

 今年3月までにすべての都道府県で構想が出そろい、合計の病床数は表1の通り、全国的には高度急性期と急性期、慢性期が余剰、回復期が不足するという結果となった。これは厚生労働省令で定めた数式に基づいた1つの推計にすぎず、将来を反映しているとは限らない。さらに、病床機能報告は医療機関の申告ベース、必要病床数は一定の数式に基づいて計算されている違いがあるため、比較する際には留保が必要である。

表1 地域医療構想に盛り込まれた病床数 表1 地域医療構想に盛り込まれた病床数

 しかし、大きな方向性が可視化された意義は大きく、構想に盛り込まれたデータや内容をベースにしつつ、各地域で25年を意識した医療提供体制の構築に向けた議論が進む予定である。

 議論の場として期待されているのが「地域医療構想調整会議」(以下、調整会議)である。これは構想区域ごとに設置される会議体であり、地域医療構想に盛り込まれた病床データや施策などを基に、25年を見据えた提供体制改革について、都道府県や地元医師会、病院関係者、介護関係者、市町村などが各地域で合意形成を進めることが想定されている。

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