地域医療構想を3つのキーワードで読み解く都道府県はどこへ向かう(3/6 ページ)

» 2017年12月06日 09時00分 公開
[三原岳ニッセイ基礎研究所]
ニッセイ基礎研究所

切れ目のない提供体制の構築という視点

 では、厚生労働省が病床削減による医療費適正化という目的を否定しているのはなぜだろうか。

 それは制度化プロセスにおける日本医師会との調整が影響している。

 厚生労働省は11年11月の社会保障審議会(厚生労働相の諮問機関)医療部会で、人員配置や構造基準をクリアした病床を急性期として認定する「急性期病床群」(仮称)の新設を提案した。これは急性期について国の要件に従わなければ急性期と見なさず、単価の高い診療報酬も渡さない意図だったが、日本医師会は「急性期医療をできなくなる地域が生まれる」と懸念した。

 さらに厚生労働省は12年4月、急性期病床の登録制度を提案したが、これにも日本医師会は実質的に認定と変わらないと反対した。その理由について、日本医師会副会長は雑誌の対談記事で、急性期病床に医療資源を集中する方針が示されたことについて、「急性期だけでなく慢性期・在宅まで切れ目なく(注:提供することが)大事であって優劣はないと一貫して主張した」とした上で、急性期病床の認定制度には「認定される施設とされない施設では診療報酬で大きな差がつき、特に地方では急性期医療が提供できなくなると反対した」、登録制度には「登録でも要件があるはずだから認定と変わらないと(注:反対した)」と明らかにしている(※6)。

 その後、日本医師会は12年5月、対案を示した。対案では、(1)各医療機関が担っている機能について、都道府県に情報を提供する仕組みを創設、(2)都道府県は情報を活用し、医療提供者の主体的な関与の下、地域の実情を踏まえた提供体制を検討する、(3)都道府県は報告の仕組みを通じて得られた情報を住民、患者に示し、医療提供者、行政、地域住民、患者とともに、地域に実情に合った提供体制を作り上げる――といった内容であり、現在の制度に至っている。

 こうした経緯を見ると、日本医師会との調整プロセスを経て、「病床削減による医療費適正化」という当初の目的が薄まるとともに、「切れ目のない提供体制の構築」という目的が加わったことが分かる。

※6 『病院』74 巻 8 号 p535 における中川俊男日本医師会副会長の発言。

「必要病床数=削減目標」を否定

 では、「病床削減による医療費適正化」「切れ目のない提供体制の構築」という2つの目的が混在しているとして、どちらの目的を都道府県は重視したのだろうか。結論から言うと、後者の「切れ目のない提供体制構築」を重視している。

 まず、都道府県のスタンスは必要病床数について表れている可能性が想定される。もし都道府県が「病床削減による医療費適正化」という目的を重視しているのであれば、必要病床数を1つのターゲットとして、削減の姿勢や努力を見せることが予想されるためだ。

 だが、地域医療構想の文言を精査すると、図1の通りに29道府県が「強制的に削減しない」「機械的に当てはめない」などの表現を用いつつ、必要病床数が削減目標ではないことを明示していた。

図1 必要病床が削減目標ではないと明記したかどうか 図1 必要病床が削減目標ではないと明記したかどうか

 この背景には、必要病床数を削減目標と位置付けないように要請していた日本医師会に対する配慮があったと推察される。日本医師会は必要病床数を削減目標ではない旨を明記していない構想が見られる点を問題視していた(※7)。

 こうした中、地元医師会を中心とする医療機関関係者との関係が悪化すると、切れ目のない提供体制の構築というもう1つの目的達成が困難になるため、都道府県が病床削減に消極的だった様子がうかがえ、病床削減に向けた都道府県の主導性を求める政府とは明らかに異なるスタンスを取っていたことになる。この点については、強化されたとされる知事の権限についても、11道府県が言及していたに過ぎなかったこととも符合する。

 むしろ、近年の診療報酬改定では、医療機関が7:1要件を取得する際の条件を厳格にしている(※8)ため、急性期の病床数については、地域医療構想に基づく調整よりも、報酬改定の影響を大きく受けることが予想されている。こうした状況の下、都道府県としては診療報酬改定の結果と影響を見極めようという機運が強かったと考えられる。

※7 例えば、日本医師会の常任理事は「地域医療構想では将来の病床の必要量が注目されがちであるが、重要なことは将来の姿を見据えつつ、医療機関の自主的な選択により、地域の病床機能が収れんされていくことである。病床の必要量は全国一律の計算式で機械的に計算されたものに過ぎない」と指摘していた。16年9月20日『日医 News』。

※8 7:1要件を取得する際、患者の医療・看護度などを評価するいくつかの条件をクリアする必要があり、16年度報酬改定では手術や受け入れ患者に関する条件を追加することで、取得を難しくするように厳格にした。17年10月25日の財政制度等審議会では、一層の厳格化が論じられている。

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