スーパーに産直売場 仕掛けたベンチャーの大変革がスゴイ小売・流通アナリストの視点(4/4 ページ)

» 2017年12月20日 06時30分 公開
[中井彰人ITmedia]
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 これまでもコールドチェーンの必要性については、業界内でも皆が認識していたことなのだが、コストアップの原因となるにもかかわらず、売価に反映できない理由で実質放置されてきた。既存の発想の延長線では実現できなかったことも、産直という付加価値を換価し、物流の短絡化によるコストダウンを実現するベンチャーが現れたことで、状況は変わりつつある。業界構造や慣習に風穴を開けることができるのは、やはりベンチャー企業のような「よそもの」なのかもしれない。

 農業と言えば、これまで保護行政の下で非効率な産業構造が維持され、そこには既得権者が安住しているという印象を、多くの人が持っているし、自分も少なからずそう思っている。普通に考えれば、規制緩和を早急に実行し、競争を通じて既得権益を再分配することで、農業が活性化するというのは正論ではあろう。

 ただ、既得権をまず奪うことが先という考え方だけでは、既得権者の徹底抗戦に遭い、無駄な時間を要するだけだと感じている。「よそもの」の知恵が新たな付加価値を作り出し、この付加価値と既得権を合わせて再分配する前向きな提案をもって、既得権者の抵抗を緩和する選択肢があるように思われるのだ。

 前述の農業総合研究所の成功は、生産者にも、既存小売業にも、利益を提供しつつ、自社の持続可能な収益確保を実現したことで成り立っている。この会社の集荷場は地元JAに委託しているケースもあり、農協とも共存を実現している。

 既得権者の利益を新規参入者が再分割するというゼロサムの発想ではなく、まずは新たな付加価値を明示できるモデルを先行させることが、スムーズな規制緩和にもつながるのではないだろうか。そうした前向きな発想のベンチャー企業が今後も続出するか否かで、農業の未来は大きく変わるだろう。

著者プロフィール

中井彰人(なかい あきひと)

メガバンク調査部門の流通アナリストとして12年、現在は中小企業診断士として独立。地域流通「愛」を貫き、全国各地への出張の日々を経て、モータリゼーションと業態盛衰の関連性に注目した独自の流通理論に到達。


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