JR西日本、東急電鉄の事故から私たちが学ぶこと杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/4 ページ)

» 2017年12月22日 07時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]
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完成検査と点検手順の見直し

 さかのぼって、10月19日と11月15日に東急電鉄の田園都市線で送電ケーブルの破損による停電と火災が起きている。12月16日の報道によると、東急電鉄による緊急点検で、送電ケーブルやチューブなどに281カ所の傷が見つかった。そのほとんどが設置したときに付いた傷だと説明している。

 この説明がされる前に散見された「田園都市線地下区間が1977年の開業であり、40年もの歳月が老朽化を招いた」とする報道は見当違いだった。傷が経年変化を早めたとは言えるけれども、適切な施工と点検が成されていれば、40年程度では危険が及ぶほど老朽化しない。この区間は新しいトンネルを掘って複々線化し、輸送力を増強すればいいと思う。ただしそれはまた別の話だ。老朽化で本当に心配なトンネルは開通から75年も経過した関門トンネルだ。しかし、施工時の停電事故はあっても開業後のケーブル火災事故は報告されていない。

 東急電鉄の事例は、当時の施工に原因があるといっても、施工業者への責任追及はできないだろう。こうした工事は最後に検収という手順があり、施主がきちんと点検してからサインして工事完了となる。これはマンションの購入時やリフォーム工事も同じ。検収が終わったら、施工業者は免責だ。今後の取引に影響があるかもしれないけれども。この件は、40年にわたり施工時の傷を見極められなかった東急電鉄に問題がある。

 ここで現場経験もなく知識もない私が「東急電鉄が悪い」というのはカンタンだ。しかし、ちゃんと責任を追及する役目は監督官庁の国土交通省が果たす。20日に国交省は鉄道事業者の安全管理責任者を集めて緊急会議を実施している。安全管理を徹底するように、という通達のあと、ベテランの保線担当者が定年で大量に辞めている、業務の複雑化、人手不足などの問題点を報告。官民挙げて問題点を追及する流れになっている。これは良いことだ。

photo 東急電鉄の火災事故は施工時に原因があった

タコ足配線と犬の旅行は要注意

 送電ケーブルの施工時の傷が原因、と知ったとき、まず私が取った行動は、仕事場を主とした電源ケーブルの点検とタコ足配線の見直しだった。生前の父が壁や天井に這わせた配線はクギや針金で固定されており、家の外の物置あたりではそれが錆びていた。私のデスクにも電源ケーブルが多数ある。コンセントやタップのほこりが火花で引火するという火災事例も考えると、東急電鉄ばかり非難できない。

 鉄道事故の報道を知って、やじ馬に興じるか、何らかの教訓を受け取るか。どちらが有意義かは言うまでもない。

 蛇足ながらもう1つ。

 12月19日、山陽新幹線の乗客の犬が逃走して線路に侵入。2度にわたって列車の運行を止め、上下54本に最大1時間20分の遅れが出た。犬と列車に乗るときはケージやバッグに入れること。私を含め、犬を飼っている人は守りたいルールである。

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。


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