「口裂け女」を岐阜のアイドルにした、地元経営者の“本気”商店街に活気を(3/5 ページ)

» 2018年01月09日 07時00分 公開
[加納由希絵ITmedia]

口裂け女を輝かせる

 お化け屋敷は商店街の入り口にある、かつて映画館や劇場として使われた空き店舗に構えた(16年は移転)。名称は「恐怖の細道」。来場者が昭和の柳ケ瀬にタイムトラベルして、少年「やなお」を探し出す、というストーリーに仕立てた。もちろんメインキャラクターは口裂け女だ。長良川の鵜飼い船や織田信長など、岐阜ならではの要素も盛り込んだ。

 コンセプトは話題になったが、製作委員会は地元の経営者らによる有志の組織。お化け屋敷に関する知識やノウハウがあるわけではない。プロに委託するほど資金があるわけでもなく、自分たちで作るしかない。それでも、学芸会や文化祭のようなものにはしたくない。お台場の「台場怪奇学校」を“師匠”に、本格的なお化け屋敷を学んだ。

 大事にしたのはやはり口裂け女だ。主役は建物や小道具ではなく、口裂け女。「ハードの中にキャストがいる、というのではなく、『キャストのためのハード』を目指しました」。空襲もあった昭和の岐阜の学校や商店街をセットで再現。昭和の雰囲気を感じながら暗く長い道のりを進んでいくと、物陰からマスクを取った口裂け女が飛び出し、襲ってくる。その怖さは大人も叫ぶほど。初年度のリタイア人数は1000人を超えた。

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photo 昭和の柳ケ瀬を再現(2012年)
photo 思わぬところに口裂け女が隠れている(2015年)

 主役となるキャストもプロではない。口裂け女役は、初年度は知人の紹介などに頼ったが、2年目以降はオーディションを実施している。演じ方や登場の仕方は、キャスト自身が考える。そのため、演じ方に正解はなく、客の反応を見てやり方を変えたり、より驚いてもらうためのアイデアを自ら出したりと、スタッフ全員で作り上げている。

 「入り口で乗り物に乗り、時空を超えて昭和の柳ケ瀬に連れていかれる、という設定なのですが、キャストから『先に乗って、隠れていてもいいか』などと提案がありました。イレギュラーな感じを出すアイデアです。常連客が来たときには演出のパターンを変える、というアレンジもありました。やり方はキャストに任せていて、『そう来たか!』と思わせるものも多くあります」

 自由自在に動く口裂け女を引き立てる仕掛けは、お化け屋敷を飛び出して、外にも設けた。商店街を舞台に、口裂け女の歌謡ショーや菓子まきを実施。口裂け女の歌や写真を目当てに来てくれる人も増えた。

 初年度の開催期間は7月中旬〜9月下旬の約70日間。若者や子どもを中心に、計1万7916人が来場した。閑散としていた柳ケ瀬に、若い人の笑い声や叫び声が連日聞こえるようになった。翌13年の来場者は2万2000人、14年は開催できなかったが、2年ぶりとなった15年は1万8900人、16年は1万4500人が訪れた。

 「口裂け女が子どもたちに愛されるようになりました」と吉村さんは話す。開催期間の最終日には、口裂け女との別れを涙で惜しむ姿まで見られるようになった。地元の人たちが楽しみにしてくれる催しに育ってきた。

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