中国製EVに日本市場は席巻されるのか?池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/5 ページ)

» 2018年01月09日 06時00分 公開
[池田直渡ITmedia]
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 問題はまだある。乗用車の排気ガスと安全の規制はまだ世界的にはエリアによってまちまちだ。中国はドイツとの蜜月関係によって、多くの基準を欧州に合わせている。日本は独自だとは言うものの、やはり過去の経緯から北米に近い規制が多い。そのため、乗用車の輸出の場合規制適合の壁がまだ存在する。中国国内マーケットに特化し、多様な規制対応を考慮してこなかった中国国内の生産設備が、世界各国の規制にマルチに対応して作り分けられるかどうかは未知数である。

 規制は徐々に世界統一の方向に向かっているが、すぐに統一基準にはならない。つまり中国の場合、対日輸出用に規制適合したクルマを従来のラインに流さなくてはならない。多品種少量の混流生産技術は、単一車種大量生産とは別物であり、遥かに難しい。単純な話、右ハンドル化だけでも相当に面倒である。このあたりが規制の相互乗り入れが成立し、かつ元々が大量生産というよりハンドメイドの部分が多く、しかもスペース的に余裕があって右ハンドル化のハードルが低いバスとは異なるのだ。

 そして、それだけの手間をかけるほどのマーケット価値が日本にあるのかというのもポイントだ。中国が自動車を自由化するとすれば、もちろん規模が大きい北米マーケットは狙いたいだろうが、まずは関係性が深く、規制がほぼ共通の欧州への進出を図った方が手っ取り早い。日本の自動車メーカーは第1の故郷が日本、第2の故郷が北米。つまり、そう急にマーケットでの競合は起こさないと考えられる。

 さてまとめよう。中国車、ことに乗用車が日本車を駆逐するには、まず中国のマーケットを開放しなくてはならない。その上で中国企業の国際化に着手し、人民元の完全自由化を図る必要がある。さらには世界各国の環境と安全に基準への適合が待っている。

 解決すべき問題の大きさと多さを見れば、常識的に考えて差し迫る危機と言うにはほど遠い。もっと中長期的に見れば、栄枯盛衰は誰にも分からない。永遠に心配がいらないと言っているわけではない。台風に備えるなら、せめて熱帯性低気圧が発生してからでも遅くはないと言っているのだ。

筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)

 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。

 現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。

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