JR信越線で「15時間立ち往生」は、誰も悪くない杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/5 ページ)

» 2018年01月19日 07時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]
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「助けて」は恥ではない

 悪意はなくても乗客をつらい目に遭わせてしまった。なぜなら、これは人間が予測できないほどの自然災害だからだ。人災ではない。責めを受けるべき人はいない。それよりも、同じことが起きたらどうするか。そこを考えた方がいい。雪に人を楽しませる魅力があるからといって、大雪、雪害をなめちゃダメだ。

 あえて言えば、線路閉鎖のための踏切警備を警察に依頼するとか、自衛隊の除雪車を要請するとか、天候の状況次第だけど、ヘリで救出を依頼するなりの方法はあったかもしれない。しかし、JR東日本は自分たちで解決できると思ってしまった。それは悪意ではない。鉄道マンの誇りだと思う。ただし、大災害を前にして、誇りを捨てて助けを求める。それは決して恥ずべきことではない。これは理解してもらいたい。

 本件で誰かを悪者にして責任を取らせるとすれば、今後、責任回避のために「羮(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹く」事態になりかねない。2013年2月6日に首都圏で起きた大混乱を記憶される方も多いだろう。首都圏で積雪10センチの予報に対して、JR東日本は事前に大幅な減便を実施したけれど、結果として予報は外れた。しかもJR東日本は減便を復旧できず、大混乱を招いた。(関連記事

 大雪で大混乱になるくらいなら、ちょっとでも雪が降ったら運休。雪が降りそうだから運休。確かにその方が無難だ。しかし、実際には運休しなくても済んだ、という事態になったら、それは人々を不幸にする。安全安心のための責任逃れが横行し、鉄道が不便な道具になっていく。責任を回避しようとする意識は悪意だ。それを恐れるべきだ。

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。


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