クルマはこれからもスポーツであり続けられるか?池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/4 ページ)

» 2018年01月22日 06時30分 公開
[池田直渡ITmedia]
前のページへ 1|2|3|4       

 つまりは、加速度の変化量をなだらかで連続的にすることが、躍度のコントロールである。そのためには事前のイメージがいる。自分が狙った速度まで、狙った加速度でピタリと正確に到達すること。思った速度に狙ったマイナス加速度で正確に減速すること。曲がるときなら、自分が意図した理想のラインに狙った横方向加速度で寸分の狂いもなく乗せることだ。その間の加速度の変化量を快適にコントロールすることが躍度の制御である。

Bセグのデミオから国内で最も大きいCX-8まで、またM/T・A/T、FF・AWDとさまざまなクルマでテストが行われた。もちろんFRのロードスターもだ Bセグのデミオから国内で最も大きいCX-8まで、またM/T・A/T、FF・AWDとさまざまなクルマでテストが行われた。もちろんFRのロードスターもだ

 計画し、操作し、検証する。計画は上に書いたきれいな連続変化によって「走り・曲がり・止まる」プランだ。あるいはイメージと言っても良い。操作はそれをハンドルとペダルでどうやって実現するか。そして検証とは連続的な加速度が乱れ、変なピークが出ていないかを確認することだ。

 さて、この躍度のコントロールが全てドライバーに起因するかと言えばそうではない。人間が連続的に変化させようとするのに、クルマが勝手に不連続にしてしまう場合がある。冒頭に書いたAWDがまさにそうだ。じわりとトルクを掛けているのに、フロントタイヤが滑り、しかるのちに急にリヤタイヤに駆動力が掛かってグリップする。こういう仕組みでは躍度はコントロールできない。つまりこの面から言えば、躍度をコントロールするために作ったAWDシステムがi-ACTIV AWDだとも言えるのだ。

 躍度の急変が不快感を招くということは、躍度は快不快に直結しているとも言える。逆説的に言えば、適切な躍度変化を演出することで、走る・曲がる・止まるから得られるエンターテインメント性は演出できると言い換えることも可能だろう。

 摩擦の低い路面ではタイヤのスイートスポットが狭くなるため、ごまかしが効かない。正確な制御が求められる。だからマツダは冬季テストコースで躍度の体験ドライブを開催しているのだ。それはハードウェアが正確な躍度変化を制御できるものに仕上がっているというエンジニアリングへの自信の表れでもある。

 今や公道で乱暴な運転をすることが許されない時代である。周りのクルマのドライブレコーダーで撮影した動画をWebに上げられてしまう時代だ。そんな時代でもクルマでスポーツすることを諦めないために、絶対的な速度や加速度に寄らないファンtoドライブを考えていかなくてはならない。

 マツダは躍度に注目することで、そういう新しい時代のファンtoドライブを推し進めようとしているのだ。

筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)

 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。

 現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。

 →メールマガジン「モータージャーナル」


前のページへ 1|2|3|4       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.