ふるさと納税 返礼品競争から脱却できるか?起業家支援プロジェクトへの危惧(1/2 ページ)

» 2018年01月29日 08時30分 公開
[高岡和佳子ニッセイ基礎研究所]
ニッセイ基礎研究所

 2017年9月26日、都道府県知事および市区町村長宛に、ふるさと納税のさらなる活用に関する総務大臣書簡が発出された。

 書簡によると、総務大臣には、ふるさと納税の有効活用のために重視していることが2つある。1つ目は、ふるさと納税の使い途を地域の実情に応じて工夫して、事業の趣旨や内容、成果をできる限り明確化することであり、2つ目は、ふるさと納税をしていただいた方との継続的なつながりである。

過熱するふるさと納税の返礼品競争(写真はイメージです) 過熱するふるさと納税の返礼品競争(写真はイメージです)

 これを前提に、総務省から、3つの支援策(「ふるさと起業家支援プロジェクト」、「ふるさと移住交流促進プロジェクト」および「優良事例集の作成による横展開」)が示されている。今回は、支援策の1つ「ふるさと起業家支援プロジェクト」に焦点を当てる。

 「ふるさと起業家支援プロジェクト」の目的と概要は、図表1に示すとおりである。筆者には、このプロジェクトに関し、思うことが2つある。

ふるさと起業家支援プロジェクトへの危惧

図表1 ふるさと起業家支援プロジェクト 図表1 ふるさと起業家支援プロジェクト

 筆者は、このプロジェクトの意義は、ふるさと納税に対する利用者の視点を返礼品から用途に移すことにあると理解している。しかし、結局返礼品競争に終始するのではないか、返礼品競争の新たな抜け道になるのではないかと危惧している。

 そのように考えるのは、概要の2つ目「支援先の事業に継続して関心をもってもらう為の工夫」の具体例として「自社製品の試供品等の送付、事業所見学への招待、起業が成功した際の新製品の贈呈」が例示されているからだ。用途に視点が移っているようだが、試供品や新製品と名称が異なるだけで、結局返礼品競争に終始するのではないだろうか。

 加えて、「起業が成功した際の新製品の贈呈」が厄介で、新たな返礼品競争の抜け道になることを懸念している。

 起業家の事業に関する審査項目として、事業の公益性や採算性のほか、自社製品の送付等がふるさと納税の趣旨に沿ったものであるか等が例示されている。ご存じの通り、3割を超える返礼割合のものは、ふるさと納税の趣旨に反するとされている(17年4月の総務大臣通知)。

 では、起業が成功した場合にのみ贈呈される際、何割以下までなら許容されるのだろうか。「確実にもらえる3割相当の返礼品」と「成功した場合に限りもらえる3割相当の贈呈品」では、釣り合わない。投資理論に基づけば、不確実性を伴う場合の適切な贈呈割合は起業が成功する確率に大きく依存する。しかし起業が成功する確率を正しく見積もることはできない。起業が成功する確率を正しく補足できない以上、起業が成功した際に贈呈される新製品の適正割合は設定できない。これが、返礼品競争の新たな抜け道になることを危惧している。

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