そもそもジャーナリストとしての十分な経験や訓練を受けていないユーチューバーにニュース番組を任せること自体に、疑問がある。米国では経験値の低いジャーナリストがメディアでニュースを扱うことは受け入れられない空気がある。そう考えると、ネイスタットにとってもハードルは高かっただろう。
一方で、CNNの言い分はこうだ。「日々移り変わる業界でトップになるには、チャンスをつかもうとすることを恐れてはいけないと考えます。このチャンス(ネイスタットとのプロジェクト)は逃せなかったのです。私たちはこれまでもコンテンツをつくり、CNNを強くしてきたタレントを育ててきたのですから」。要するに、ネイスタットはCNNが求めるようなタレントにはなりきれなかったと言うことだろう。
今回の失敗の原因として、こんな話もある。この投資計画に最も乗り気だったのは、CNNのジェフ・ザッカー社長だった。いや、ザッカーというよりも、ザッカーの16歳の息子だったのかもしれない。というのも、息子が「ネイスタットは人気がある」と助言したことで、彼に白羽の矢を立てたのだ。息子の一声によってCNNの多額の資金が動き、結果大コケした。ひょっとしたらザッカーの責任問題に発展する可能性すらある。
ちなみに、ザッカーはスゴ腕の人物として知られている。26歳の若さで全国ネットの朝の人気番組『トゥディ』のエグゼクティブ・プロデューサーに就任し、その後、米NBCテレビのトップを経て、CNNの社長になった。NBCのトップ時代に、トランプ大統領の知名度が全国区になるきっかけとなったリアリティ番組『アプレンティス』を立ち上げたのは、ザッカーだった。
その後、CNNの社長となったザッカーは、大統領候補となったトランプを「アプレンティス」の“延長”で取り上げ、CNNは誰も追っかけていなかったころからトランプの動向を報じ続け、トランプの勝利に大きく貢献した。そして今、大統領になったトランプはそんなCNNを「フェイクニュース」呼ばわりし、皮肉なことにCNNはそのおかげで記録的な視聴率を得ている。ある意味、トランプがザッカーに対する恩返ししているかのようで、すべて彼らの手のひらの上で起きているかのような錯覚にすら陥りそうになる。
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