「花はいりませんか、花を買いましょうと言っても、今まで触れてこなかった人たちには響きません。ただきれいな花をそろえて、ショーケースに飾って、お客さんを待っているだけではダメです。自分たちでお客さんを迎えに行かないと裾野は広がっていかないと思います」
そう痛感した前田さんは、できるだけ花と別の世界のものをつなげていくのが大事だと考え、異分野とのコラボレーションによる啓蒙活動を積極的に行っている。
例えば、カリグラフィーのアーティストと一緒にワークショップを開いたり、インドネシアのカゴ商品とコラボして花を紹介したり。かつては花屋で移動式映画館のグループを呼んで短編映画を上映したり、コーヒーショップとのコラボで来店客にコーヒーを出したりもした。
「すると、コーヒー好きの男性客や、映画を見たいから花屋に来てくれる人が増えました。花が好きな人は、当然花屋に向かって足を運ぶけど、それ以外の通り過ぎていた人たちの足を止めるには、花ではないジャンルとコラボするのも大切な方法です」と前田さんは話す。
もちろんコラボだけではなく、自らも先頭に立って花や植物の魅力を発信している。時間ができたらなるべく全国の生産者の元に足を運び、現場で取材する。この農園ではどんな草花を、どういう風に、どのような思いで育てているのかを聞き、それを広く伝えながら花を消費者に届けていく。ストーリーがあることで花を買ったお客さんはより大事に飾ってくれたり、もっと花に興味を持ってくれたりする。なお、こうした取材ではアナウンサー時代に培ったスキルが存分に発揮されているという。
前田さんが作品づくりで心掛けているのは、野山で咲いている花をそのまま切り取ってきたような空間を演出し、自然の息づかいを必ず感じるものにすることだという。
そしてまた、よく見掛ける花よりも個性的な花を選ぶことが多いそうだ。そこには、たとえ他の人と異なる道を歩んでいても、それが自分らしくあれば、きっと楽しいよというメッセージが込められているからだ。
「私も人とは違った生き方をしてきました。だから、好きなことをするため、夢をかなえるためにそうした道を選ぼうとする人たちを後押ししたいという気持ちがあります。作品に珍しい花を取り入れることで、ユニークでも美しく咲かせられる人生が必ずあるよという思いを伝えていきたいのです」
前田さん自身が抱く“夢”という花が満開に咲く日が来るのは、そう遠い未来のことではないだろう。大好きな仕事を手に入れた彼女の目は眩しいほどに輝いていたからだ。
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