──課題は。
「ブロックチェーン技術はわかりにくいので、過度に期待したり、過小評価したりする面がある。こうした振れがあると、実用化の際に障害になりかねないので、そこは適切な理解が進むことが必要だ」
「もう1つは、ブロックチェーン技術の発展にはスマートコントラクトの実装が大きなポイントとなるが、自動執行したときの法的な取り扱い、紙ベース前提の契約が前提となっている法律との整合性などについて考えないといけない」
──仮想通貨・NEMの流出事件をどうみるか。
「基本的には、取引所と呼んでいるものの問題だ。(仮想通貨・ビットコインの生みの親である)サトシ・ナカモトはブロックチェーンの概念を用い、ビットコインですべての取引が完結する世界を描いたが、そこに大きな問題があったというわけではない」
「ただ、普及に当たってはそれだけで完結する世界は難しく、どうしても現実世界との接点が必要となる。今回はその接点となる取引所のシステムに脆弱性があった」
──セキュリティーや規制を強化すれば解決する話しか。
「やり過ぎると低コストというブロックチェーンのメリットが薄れるので、コストとベネフィットのバランスを考えなければいけない。リスクも純粋に技術的なものから、ヒューマンエラー的なものまでさまざまある。どのリスクにいくらかけるかは、まさに価値判断だ」
──仮想通貨は「通貨」になり得るのか。
「中央銀行が何かしらの技術を使ったデジタル通貨を発行した場合は、通貨として流通し得る。だが、いまのビットコインやアルトコインと言われているような仮想通貨は、通貨にはなり得ない。仮想通貨という呼び方は、ややミスリーディング。将来的に通貨として幅広く使われるようになる可能性は、ほとんどないと思っている」
「仮想通貨は供給量を自由に調整するというメカニズムがない。供給量を調整できないと、需要側の変動によって価格が動くので、どうしても価格がボラタイルになる宿命を持っている。価格の変動が大きければ、決済手段として使えない」
「さらに総供給量が全体のトランザクション(取引)からすると小さ過ぎるという問題もある。特殊な環境、例えばその国の通貨の信用が低い国で多少使われるとか、海外送金など限定的な用途で使われる可能性はあるが、その程度にとどまるだろう」
「将来的に中銀がデジタル通貨を発行するべきかどうかは、よく考えないといけない。民間銀行のデジタル通貨があって、その裏付けとして中銀のリザーブがあれば、それで構わないのではないか。中銀がデジタル通貨を発行すると、ある意味で、中銀に国民が口座を持つのと同じことになるという問題もある」
*インタビューは15日に行いました。
(志田義寧 杉山健太郎 編集:田巻一彦)
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