そんなマスコミ側の苦しい立場を象徴するような、これまたかなりゆがめられた感のある報道が、「内閣人事局」をたたく記事に続く形で世に出された。
それが、「首相、批判的報道に不満か…放送事業の規制緩和」(読売新聞3月18日)という記事だ。
国民の目線にたてば、放送事業の規制緩和はありがたい。さまざまな主張をするテレビ局が増えれば、多様な意見や視点が得られるので、国民のメディアリテラシーもあがる。
だが、読売はそう思わないようで、「首相は衆院選直前の昨年10月、AbemaTVで1時間にわたり自説を述べた経緯もある。政治的中立性の縛りを外せば、特定の党派色をむき出しにした番組が放送されかねない」と恐怖をあおり、「民放解体を狙うだけでなく、首相を応援してくれる番組を期待しているのでは。政権のおごりだ」という「放送業界」の怒りを掲載している。
首相が自分の意見を述べるテレビがあっても、見るか見ないかは国民の自由のはずだが、放送業界の人々は「国民はバカなので、われわれが中立だと思う意見だけを放送すべし」と社会主義国家の特権階級のようなことを言う。
「民間企業はバカなので、われわれ優秀な官僚が導いてやる」と思っている高級官僚の方を向いて「忖度」を続けているうち、彼らの思想がうつったとしか思えない。
かつてソ連では、特権階級的な官僚のことを「ノーメンクラトゥーラ」と呼んだ。彼らはソ連が崩壊した後も生き残り、いまのロシア社会のなかでも幅をきかせている。
安倍政権もいよいよ終わりが見えてきたが、高級官僚とマスコミという日本の「ノーメンクラトゥーラ」はまだまだ栄えていきそうだ。
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで200件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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