増永氏が次に紹介した事例は「鉱山」のソリューションだ。なじみがない人も多い分野だが、鉱山では何百トンも積めるトラックや建機が常に動いている。大きなベルトコンベヤーも止まることがない。現場は厳しい環境にあるため、故障やトラブルが起きやすい。それによってオペレーションが止まってしまうと大きな経済的ロスが発生する。そのため、これらの故障を未然に防ぐことがとても重要になる。ブリヂストンは、鉱山用タイヤとベルトコンベヤーを両方作っている強みを生かして、トータルで管理できるソリューションを提案している。
タイヤにセンサーを付けて、空気圧や温度をリアルタイムで測定。管理者が手元の端末で状況を確認し、状況に応じてオペレーションを変更する。
「肝となるのは、データの分析」と増永氏は話す。データ収集によってタイヤの状態を把握できるだけではない。収集したデータを分析して、オペレーション向上につなげる。例えば、タイヤの故障分析だ。
タイヤによって寿命にばらつきがあるのはなぜなのか。分析してみると、銅、鉄、石炭など、取り扱う鉱物の種類によって、故障の理由が大きく違うことが分かってきた。また、タイヤを装着する位置によっても、故障の傾向が異なる。このような分析を、顧客がタイヤを使用する環境に合った商品提案や使い方の提案、それぞれの鉱物に適した商品の開発などに生かしていく。
このようなサービスを提供するためには、社内もデジタル化しなければならない。例えば、タイヤ製造の現場には、最新鋭の成型システムを導入。人工知能(AI)を活用して、品質を向上させている。
例えば、タイヤがより「真ん丸」になるように、製造過程のビッグデータを解析した事例がある。タイヤは真ん丸に近いほど性能が良い。真ん丸にならない原因をビッグデータで解析すると、ある部材を取り付ける際に、その部材が蛇行して取り付けられることで出来栄えに影響を及ぼしていることが分かった。AI技術を活用してこの部分を自律制御することで、品質のばらつきを約20%低減する効果があった。「ビッグデータ解析で推定された通りの効果を出すことができた」という。
最後に増永氏は、人材育成の重要性について語った。「デジタルトランスフォーメーションを推進する上で、一番重要なのはデータ分析。それができるデータサイエンティストは、なかなか外から採用できない」。ビジネス課題を把握する「ビジネス力」、データ分析の基盤を整備し、運用する「データエンジニア力」、データ処理によって有用なモデルを構築する「データサイエンス力」の3つの力を備えた人材が必要になってくる。
そこでブリヂストンは、データサイエンティストを社内で育てる研修プログラムを始めた。社内にはタイヤ設計などでデータ解析のノウハウを持つ人材が多く、データサイエンティストとしての素質があるという。それを伸ばして、早期に100人を育成する計画だ。「最も重要な人材であるデータサイエンティストを社内で育てて、さらに強みを伸ばしていきたい」
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