#SHIFT

野村不動産の過労死事件から考える、「裁量労働制」の“光と闇”“ブラック企業アナリスト”が斬る労働問題(2/3 ページ)

» 2018年05月02日 06時15分 公開
[新田龍ITmedia]

批判的な風潮は誤解を招く

 「労災認定隠蔽(いんぺい)疑惑」の真偽は明らかになっていないが、裁量労働制の違法適用者に過労自殺が起きたのは事実だ。政府と厚生労働省は現状を直視し、適切に対策を立てることが求められる。筆者の周囲でも「過労死による犠牲を隠して、過労死を増やしかねない制度の宣伝のために指導実績を使うなんてとんでもない」「局長の発言は許せない」と憤っている人たちが多かった。

 こうして振り返ると、裁量労働制が批判を浴びている現在の風潮は理解できる。ただ、筆者はこうした批判的な風潮は誤解を招き、柔軟な労働を阻害する危険性もあると懸念している。裁量労働制自体は悪質なものではなく、正しく運用できれば労働者にメリットのある制度なのだ。

裁量労働制を正しく理解しよう

 先ほど説明した通り、裁量労働制は、使用者との協定で定めた一定時間勤務すれば「働いた」と見なされる。言い換えれば「仕事が早く終われば早く帰る」こともできるのだ。

 それでいて、定時まで働いた分と同じ報酬が得られるし、そもそも出社の必要性さえない。裁量労働制に基づいた労働では、場所と時間に拘束されない働き方ができるほか、仕事が労働時間の長さという「量」ではなく、どんな価値を提供できるかという「質」で評価される。短時間で成果を上げていれば、ある程度柔軟な働き方をしていてもよいのだ。

photo 仕事が終われば「早く帰ること」も可能なのだ(=画像はイメージです)

 さらに、これはあまり知られていない事実だが、企業が個人に裁量労働制の適用を勧めた場合、労働者側は拒否できるほか、それによって不利益扱いされないことも労基法によって定められているのだ。

フレックス制度との違いは?

 「働く時間の自由」と聞くと「出社・退社時間が自由な『フレックス制度』も同じではないか?」と考える人がいるかもしれない。だが、フレックス制度の場合は出社する必要性があるし、設定期間内の労働時間について取り決めがあるから、「今日は3時間しか働かなかったから、明日は9時間働かないと……」といった縛りが出てきてしまう。裁量労働制ほどの自由はないのだ。

 それだけの裁量が与えられる制度だけに、裁量労働制は決められた業務にしか適用されない。具体的には「専門業務型」と「企画業務型」に分かれ、「専門業務型」は厚生労働省により定められた全19種類の業務のみが適用対象だ。「企画業務型」はそれ以外の業務も対象にできるが、さまざまな要件を満たすとともに、本人の同意も必要になる。いずれにせよ、会社が勝手に決めて導入することはできないのだ。

 実際、筆者の周囲にいる裁量労働制で働くクリエイターやエンジニアたちは、会社との合意の上で働き方を決め、納期直前などに長時間労働した後は平日の昼間から外出してリフレッシュしたり、出社しても気が乗らなければ早めに帰って自宅近くのカフェで仕事したりするなど、身体的・精神的に自由な仕事ができている。彼らに話を聞くと、「報道では反対意見ばかりが強調されて、裁量労働で働けなくなったらすごく困る……」という共通見解を持っているようだ。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.