あの大企業も大炎上 「しかるべき手続き」の落とし穴河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(4/6 ページ)

» 2018年05月11日 07時00分 公開
[河合薫ITmedia]

集団心理が引き起こした「チャレンジャー号」の悲劇

 「人は集団になると愚行に走る」と、行動心理学や社会心理学の分野では古くから言われてきました。どんなにモラルある人でも、集団の一員になった途端、とんでもないことをしでかします。

 これは「集団心理」と呼ばれ、そのトリガーになるのが、「認知バイアス」です。

 認知バイアスとは、無意識に事実をゆがめ、「問題があること」を「問題があるとは全く思わない」ようになる少々厄介な心のメカニズム。

特に、

  • まとまりが強い凝集性の高いチーム
  • みんなが同じ考えを持っている場合
  • 集団外部からの情報が入りにくい構造になっている場合
  • 時間のプレッシャー

 といった条件がそろうと集団心理に陥りやすいことが、さまざまな実証研究で分かっています。

 極端にリスキーな選択、極端な安全志向など、「集団極性化」と呼ばれる現象が起こり、本来であればあり得ないジャッジが下されてしまうのです。

 また、逆に、個人が自己保身から集団を利用してしまうケースもあり、これは「集団思考」もしくは「集団浅慮」と呼ばれています。

 このような厄介な心のメカニズムの代表例が、乗務員全員が亡くなるという悲劇をもたらしたチャレンジャー号の打ち上げです。

 技術者と経営陣が一緒に話し合いをし、技術者が危険だと反対意見を出したにもかかわらず、フライトスケジュールのこれ以上の遅れは許されないという経営的な判断によってその意見が黙殺され、ゴーサインが出ました。

 当時、NASAと自社の技術者の板挟みになったチオコール社の技術担当副社長ロバート・ルンド氏は「技術者の帽子を脱いで経営者の帽子をかぶる」ことを余儀なくされ、打ち上げ延期を進言した技術陣を排除し、経営陣のみで緊急の会議を開催。

 その結果、全員一致で打ち上げに賛成となり、打ち上げが決行されたのです。

 ルンド氏は、打ち上げ延期を進言した技術陣を意図的に投票に参加させなかったことが、その後の調査で分かりました。個人では到底負うことのできない、重要な決定の責任を回避するために、「組織」を利用し、責任を押し付けられることを逃れようとしたのです。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.