あなたはカローラの劇的な変貌を信じるか?池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/4 ページ)

» 2018年06月04日 06時30分 公開
[池田直渡ITmedia]

カローラに乗って考える

 さて、カローラ・ハッチバックはどうか? まずデザインの進化が著しい。プリウスは低ドラッグのための極めて論理的なボディラインの表面に、無理矢理未来感のあるお絵かきをした二次元的デザインであり、エッグアート的レベルを出ていなかった。厳しく言えば塗り絵である。それでも「ひたすらコンサバ」という枠組みから出ようとしたのは評価に値するが「やる気は認める」としか言えなかった。

 C-HRはとにもかくにも手数を増やした煩雑なデザインで、しかもプリウスのような形の合理性はない。あの形ではリヤのリフトが問題になるだろうし、それは空力デバイスで消せるのだろうが、お代としてドラッグと引き替えになる。ゴテゴテとした構築が好きな人もいるのだろうが、線の要素がうるさ過ぎる。どこかに線を入れ忘れた平面を残して、平家の怨霊に持ち帰られてしまうのを恐れているかのようだ。「変わらなきゃ」という気持ちが恐怖を呼び、とにかくデザイナーの手を動かし続けさせたようで、ちょっと痛々しい。

奇をてらわずに、上下に薄く構築したインテリア。機能を凝縮した密な部分と余韻としての間を使い分けたデザインだという 奇をてらわずに、上下に薄く構築したインテリア。機能を凝縮した密な部分と余韻としての間を使い分けたデザインだという

 カムリは離れて見れば形そのものはキレイなのだが、やはりC-HRと同じく「耳なし芳一」系だ。ディティールの線の要素がうるさい。それでもコンサバに固執し続ける未来のないデザインよりは良い。「挑戦」が感じられることには強く応援したいものだが、仕上がった結果そのものはそうそう褒められる出来ではなかった。

 「10年くらいかかるかな」と思っていたそのデザインが、カローラ・ハッチバックで一気にちゃんとした。三次元の立体としてのデザインがようやく始まった。ラグビーボール状のボディを水平に安定させるためにランプ類をオフセットして後退させ、後退させたことで左右に広げて寄り目配置になることを防いだ。

 そのグラフィックも眼球部分を外側に引っ張り出すデザインになっている。こういう三次元で機能とデザインをシンクロさせていく作業がトヨタにもできるようになった。これは大きい。プリウスからのトヨタデザインを酷いと言っていた人が、カローラも引き続き酷いと言うようなら、その人には本質的な違いが分かっていないということになる。

 シートと運転環境はTNGA水準。ということは割と良い。絶賛するところまではいかない。例えば、ホイールハウスの張り出しの側面をもっとスムーズな形状にすべきだし、うわさされている価格からいっても、オルガンペダルくらいおごっても良かったのではないだろうか? しかしわざわざ文句を付けなくてはいけないものにもなっていない。ことドライビングポジションに関しては、全ての自動車の中でも上位25%くらいに入るものにはなっている。

 パワートレインは1.2のダウンサイジングターボとハイブリッド。サーキットではターボユニットは少し足りない感じが否めなかったが、ハイブリッドはとても良かった。両方ともぜひ街乗りで試してみたい。走り出してすぐステアリングフィールが良いことは分かった。タイヤの支持剛性が高く、かつてのトヨタ車の通例だったゴムブッシュのコンプライアンス過大で、舵角を変えてないのに横力が増えるに従ってタイヤの切れ込み角度が甘くなっていくという感覚もない。併せてステアリングコラムの剛性が上がっており、とても信頼を感じるものになっている。

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