子どもを持つのは国のため? 「3人以上産んで」発言に潜む“幻想”河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(5/5 ページ)

» 2018年06月08日 07時00分 公開
[河合薫ITmedia]
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「産めよ育てよ国のため」は過去の話ではない

 太平洋戦争が始まった1941年。国は「出生数を5人」とする「人口政策確立要綱」を閣議決定。さらに同じころ、「おいおい、マジかよ〜〜」とあぜんとする、「結婚十訓」なるものを提示しました。

【結婚十訓】

  1. 一生の伴侶として信頼できる人を選びましょう
  2. 心身共に健康な人を選びましょう
  3. お互いに健康証明書を交換しましょう
  4. 悪い遺伝のない人を選びましょう
  5. 近親結婚は成るべく避けましょう
  6. 成るべく早く結婚しましょう
  7. 迷信や因習に捉われないこと
  8. 父母長上の意見を尊重しなさい
  9. 式は質素に届けはすぐに
  10. 産めよ育てよ国のため

 ……すごい訓示です。

 でも、これって……、過去の話であって過去でない。はい、そうです。似たような政策が現代の日本でも掲げられています。2013年に設置された「少子化危機突破タスクフォース」です。

 初代議長は森雅子・少子化担当相(当時)。批判が殺到した「女性手帳」、若年層の恋愛調査の実施、婚活イベントへの財政支出、若年の新婚世帯の住宅支援など、「さっさと女性は結婚し、子どもを産み、仕事もしなさい! そのためには、婚活もサポートをしますよ」という政策を次々と展開しました。

 いわば、「結婚十訓」の現代版です。

 かつて総スカンされた柳沢伯夫・厚労相(当時)の「女性は子どもを産む機械」発言も、瞬く間に炎上した自民党・山東昭子参議院議員の「4人以上産んだら表彰」発言も、そして、加藤氏の「3人産んで」発言も全て「結婚十訓」。戦時中の「お国のために」というプロパガンダが息づいているのです。

 時代は変わり、家族のカタチも、働くカタチも、全て戦時中とは全く違うのに、当時の「理想」を追いかけているだけで、それを可能にする環境を整備しない社会。誰も、「お国のため」なんて考えている人はいないのに、あたかもそういう人がいるかのような幻想がまん延している社会。

 そういったいくつもの「妄想と現実のギャップ」が、さまざまな問題を引き起こしているのです。

河合薫氏のプロフィール:

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 東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。

 研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)


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