一方で、入館者数は低迷を続け、市が運営を手放すことが決まった。年間24万人を割ると収支が赤字になるため、多額の税金を投入し続けることが議会で問題とされたからだ。
建物は市が所有し続けるが、運営は水族館スタッフが設立した会社が指定管理者として委ねられることになった。しかし、このままお客さんが増えなければ給料すら出ない。魚も飼えなくなる。
失業の危機を感じた先輩社員が次々に辞めてしまい、新人の小林さんは「棚からボタ餅」方式で昇進。入社数年にもかかわらず主任になった。さらに、小林さんが声をかけた結果、同じく東海地方の水族館でくすぶっていた戸館真人さん(38歳)が10年に移籍してきた。
「戸館は交渉がうまいんです。私は上司に対しても反抗的な態度を取ってしまうのですが、戸館は上手に話を進めて、私のアイデアを実現できるようにしてくれます」
小林さんと戸館さんのコンビで推進した初めての大仕事が、11年に完成した「さわりんぷーる」。魚介類を見るだけではなく、触ったり一緒に写真を撮ったりできるコーナーだ。
「数少ない常連のお客さんから提案してもらいました。他の水族館でもタッチングプールはあり、珍しいものではありません。正直言って、私たちとしてはやりたくないんです。大事に飼育している生き物は、触られると弱ってしまいます。少ない予算で作っても、『しょぼい水族館がしょぼいタッチプールを作ったね』といわれておしまいです」
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