彼が印象的な言葉を発する。
「いまも人生をどう生きようか考えている途中なのですが、当社へ入社するまではもっと迷っていたんです」
下宿代も出さない父が息子を特別扱いするわけもなく、彼は入社後、すぐ現場に放り込まれ、次第にこんなことに気付いた。
「経験が少ない社員に立地がいい店を任せると、決められたことをソツなくこなせば売り上げを確保できるから、いつしか 『こうしていればお客さまは来てくださる』と思い込むようになります。そんな人間が立地の悪い店に行くと、決められた作業だけでは業績が伸ばせず、対策が打てずに最悪、店をつぶしてしまいます。
一方、若い時期にあまり売り上げがよくない店舗に行った社員は、毎日『困った、困った』と陳列を変えたり、接客を変えたりして、いつしか自分の頭で考えるクセをつけていきます。こういった社員には、その後、どんなお店を任せてもうまくやってくれますよ。
余談ですが、私は面接で陽気な方を採用しています。『売り上げが伸びない……』と暗くなってもつらい思いをするだけ。一方、明るい人は『どうしよう!?』と考え始めます」
「DIFFERENCE」記者会見時の湖中氏(写真中央)
自分の人生とも重なるのだろう、迷いに迷って自分の頭で事態を打破する側の人間と、唯々諾々と人の言うことを聞く側には大きな溝がある――。次第に、彼は探索を始めるようになる。子どもが近所を探検するように、自分なりの地図を広げていけばいい、とでも考えたのだろうか。
「仕事仲間や取引先から学びたくて、時間をつくっては訪ねていたんです。誰にでもスゴいところはあります。そして『なぜこんなことができるんだろう』などと感心すると、それが自分の糧になるんです」
いわゆる“好奇心が旺盛”というとろこだが、訪ねるだけでは足りないらしい。
「流行している何かも、体験するか、最低限、見ておかないともったいない感覚があります。例えば最近なら、仕事でタイに行ったついでにコスプレの祭典ものぞいてきましたよ。私は間違っても『不思議な文化だなあ』などと、簡単に済ませることはありません。コスプレイベントにはわざわざ聖地、秋葉原で衣装を仕入れている方もいました。彼らの情熱の源は何なのか? 私どものビジネスでも『日本人ビジネスマンと同じ格好をしたい』といった形で生かせないのか? そんなことを考えるんです」
こんな“探索”が、経営者・湖中氏の原点になった。
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