近鉄のフリーゲージトレインは「第2の名阪特急」になる?杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/6 ページ)

» 2018年06月15日 07時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

近鉄がフリーゲージトレインに取り組む理由

 新幹線のフリーゲージトレインが行き詰まっている中、近畿日本鉄道が名乗りを上げた。6月22日、同社の総合研究所にフリーゲージトレイン開発推進担当役員を就任させる。国交省とも連携する方針とのこと。採用路線として、橿原線と吉野線の直通列車が上がっている。近鉄は大阪・京都・奈良・名古屋を結ぶ路線網と、大阪阿部野橋・吉野を結ぶ路線網で軌間が異なる。フリーゲージトレインを走らせれば、全路線を直通する列車を設定できる。新幹線の採用が消えたいま、長崎の敵を吉野で討つという形だ。

 近鉄は大手私鉄で路線距離の合計が最も長い。ちなみに2位は東武鉄道、3位は名古屋鉄道だ。巨大な路線網が出来上がった背景には、過去に鉄道事業者の合併、買収を繰り返した歴史がある。その結果として、自社の路線の規格を統一できない。これはよくある話で、例えば京王電鉄は京王線と井の頭線で軌間が異なるし、阪急も京都線系統は他の路線と車体のサイズが異なる。

 近鉄の場合は、多くの路線が新幹線と同じ軌間、標準軌だ。これは路面電車から始まった歴史による。しかし、南大阪線と吉野線は狭軌である。吉野線は吉野鉄道が軽便鉄道として建設され、吉野口で国鉄和歌山線と線路をつなぎ、貨車を直通させるための路線だった。お花見の時期は国鉄から吉野へ直通する旅客列車もあったという。

 南大阪線・道明寺線・長野線は大阪鉄道が開業した。御所線は大阪鉄道の子会社の南和鉄道による。大阪鉄道は狭軌を採用しており、後に吉野線と直通運転する。これらの路線は後に近鉄の前身の大阪電気軌道に買収された。こうして、南大阪線・吉野線系統は近鉄の広大な路線網から独立した運行系統となった。

 近鉄は路線網が広大なだけに、大阪・京都・名古屋の三大都市と、京都・奈良・伊勢・吉野など観光名所に恵まれている。吉野線は2004年にユネスコ世界遺産に指定された「紀伊山地の霊場と参詣道」へのアクセスルートとして、訪日観光客からも注目されている。近鉄では南大阪線と吉野線を直通する特急「さくらライナー」と、観光列車の「青の交響曲」を走らせている。フリーゲージトレインを実用化すれば、橿原線を経由して、大阪・京都・名古屋から吉野へ向けて特急列車を運行できる。世界遺産へ、新幹線の駅から直通列車を運行できるわけだ。

photo 近鉄特急の運行系統図。大阪阿部野橋〜橿原神宮前〜吉野の系統が他の路線から分離していると分かる(出典:近畿日本鉄道公式サイト

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