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松屋フーズ、ヤマト、KDDI、第一生命 先進企業に探る「障がい者雇用」の本質もう1つの「働き方改革」を急げ(2/5 ページ)

» 2018年06月20日 09時00分 公開
[中西享ITmedia]

厚労省がとる「アメとムチの政策」

 障がい者の雇用比率が未達の企業は、従業員規模が小さくなるほど多い。未達になった企業(従業員が100人超〜200人以下の企業)は、障がい者1人が不足するごとにペナルティーとして月額4万円、200人超の企業は同5万円の納付金を納めなければならない。悪質な場合には企業名も公表され、イメージダウンにもなるため、障がい者雇用は経営者にとっては、避けて通れない課題になった。一方で厚労省は、雇用率を達成した企業には調整金を支給するという「アメとムチの政策」をとっている。

 大企業は、障がい者雇用のために、特例子会社などの別会社(全国で約460社)を設立しているケースが多い。そのため、工場やオフィスの仕事の中から、障がい者に合った仕事を切り出しやすいという利点がある。

 その一方、冒頭の自動車部品の会社のように、販売会社や中小企業の場合には、ふさわしい仕事を見つけるのが難しいという現実がある。ビルや工場での清掃作業などは、管理会社などに外部委託する企業も増えているため、これまで障がい者に担ってもらっていた仕事が減ってきているのだ。しかも、その仕事の多くが、清掃や郵便物の仕分けなど単純作業が多いため、長続きしないケースが多い。それに加えて、20年にはさらに法定雇用率が2.3%にまで引き上げられることも、輪をかけて各社を悩ませている。

「経営上の戦力」とできるかが真の課題

 障がい者の就労問題に詳しい中島隆信・慶應義塾大学商学部教授は、「障がい者をいかに『経営上の戦力』とできるかが各社に問われている」と指摘する。

 「10年以上前は大企業が納付金を払い、中小企業がもらう側だったが、ここ数年はこれが逆転している。大企業は雇用率未達成による納付金よりも、悪評の方を気にして障がい者雇用に躍起になっている。一方、障がい者雇用が経営の負担と考えている中小企業は、納付金を支払うことによって雇用義務を回避している。

 雇用納付金制度は、もはや障がい者雇用のインセンティブとしては機能していない。そもそも企業内で、単純作業中心の間接業務を切り出すには限界がある。大事なのは、障がい者が本業で活躍できるように、企業が働き方を変えていくことだ。一部の企業で実施されている、社内カフェで障がい者を使っている事例は、社内雇用というよりも『社内福祉』になっているケースが多い。同一労働同一賃金の原則のもとで、立派に経営上の戦力として活用できてこそ、真の障がい者雇用といえるのではないか」

photo インセンティブとして機能しなくなった「雇用納付金制度」を批判する中島隆信・慶応大学商学部教授

 障がい者の雇用が増えているのは事実だ。しかし、ただ単に雇用を増やせばいいというわけではなく、「働き方改革」が叫ばれる時代、一人一人がきちんと本業の中で活躍できる環境を整える仕組み作りが企業社会に求められている。

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