レスリング栄氏が溺れた「権力の罠」 根源にある“構図”とは河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(4/4 ページ)

» 2018年06月22日 07時00分 公開
[河合薫ITmedia]
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“依存”が権力を「悪」にする

 権力は、さらなる権力をもたらす――。

 人間には「権力に溺れる欲」もあれば、「権力にすり寄る欲」もある。「自分に何かをもたらしてくれるだろう」という期待に人は魅了されます。そして、権力が1人に集中し、組織全体が権力者に「依存」する構図になったとき、権力は圧倒的な「悪」と化します。

 今回の栄氏のケースでは,栄氏自身が「自分が法律」と勘違いしたのに加え、栄氏の教え子が次々とメダルを獲得し、至学館だけではなく、レスリング協会までもが「栄氏の力量」に依存したことでパワハラが暗黙裡にされてしまったのです。

 先に書いた通り、権力そのものは決して悪ではありません。「仕事をやり遂げ、資源を動員し、自分の目標達成のために必要なものを手に入れて使うことができる能力」としての権力を、正当に機能させるためには、心理面だけではなく、人を取り巻く環境や社会を改善することが必要。そうでない限り、権力に伴う“悪事”はなくなりません。

 そんな環境をこの先、レスリング協会は改善できるのか? 単なる“尻尾切り”にしないためには、圧倒的パワーを持つ学長がこのあたりも説明することが必要なのではないでしょうか。

河合薫氏のプロフィール:

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 東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。

 研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)


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