え!? これクラウンだよな?池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/5 ページ)

» 2018年06月25日 06時30分 公開
[池田直渡ITmedia]

クーペデザイン時代のセダン

 まずはデザインだ。これまでのクラウンは「いかにクラウンであるか」をテーマにしてきた。しかし、これまで述べたように、マジェスタ/ロイヤル/アスリートを統合する以上、そのための新しい形を模索しなくてはならない。これまで前後を貫く水平なウエストラインと箱型スタイルいう、オーセンティックなセダンの文法に則ってきた基本形を、根本的に改めた。その方向性はドイツで大流行中のクーペ的セダンである。

 今や懐かしい言葉となったが、ボーダレス後の欧州では交通量の増大によって実用巡航速度が大幅に下がった。その結果、時速200キロオーバーでの巡行と居住性の両立のために求められてきたセダンというパッケージの優位性が失われ、ピープルムーバーと呼ばれるエアボリュームの大きいクルマに移行しつつある。日本のミニバンブームから10年遅れて欧州も似たようなクルマが流行り出したのである。

フロントグリルを囲む形の造形がそのまま左右Aピラー付け根に向かう。フェンダーはその外側に別体として取り付けられるイメージ。ヘッドランプのグラフィックは複雑だが、面としてはあくまでもフェンダーの面の一部で、ランプの形と機能を三次元で表現したものではない フロントグリルを囲む形の造形がそのまま左右Aピラー付け根に向かう。フェンダーはその外側に別体として取り付けられるイメージ。ヘッドランプのグラフィックは複雑だが、面としてはあくまでもフェンダーの面の一部で、ランプの形と機能を三次元で表現したものではない

 こうした背景を受けてセダンの意味が急速に変わった。高速性能と居住性の最良のバランスポイントとしてのセダンではなく、スーツと同じく、フォーマルなプロトコル性のための車種になった。エアボリュームでピープルムーバーと競っても勝ち目がないセダンは、徐々にリヤの居住性を犠牲にしてスタイルに特化する方向に進む。メルセデス・ベンツCLSなどのクーペ型セダンのヒットによりそれは加速し、現在ダイムラーやBMWは箱型セダンとクーペ型セダンの両方をラインアップしているが、クーペ型セダンの勢力は増すばかりである。

 欧州以上にミニバンの普及率が高い日本で、セダンの先行きを考えれば、よりクーペ型セダンの方向に進むのはロジカルには正しいはずで、クラウンの6ライトクーペ風セダンという方向性は世界のトレンドを汲んだものになっている。

 デザイン的に問題があるとすれば、そうした新しいセダンの形に対して、旧来からのクラウンらしさを無理やりに接ぎ木したフロントデザインで、せっかく三次元の塊としてデザインしたクルマに、二次元的発想時代の「クラウンらしい」フェイスを何とかなじませようとデザイナーが悪戦苦闘した痕跡が残っている。例えば、フロントフェンダーアーチの一部を無理やり二次元の平面で切り取ったヘッドランプなどは、三次元の形として表現しきったテールランプとは呼応しているとは言い難い。

 ただし、クラウンが欧州の流行にそのまま乗っかっているのかといえば、そこは芸の細かさで定評のある日本の寄木細工のような繊細さも持ち合わせている。例えば、カップホルダーなどの可動物の動きを滑らかでゆっくりした動きにチューニングしている。桜や雪の舞い散るような「秒速5センチメートル」な動きのもてなしがそこに用意されているのだ。

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