モンテローザに「パクリ疑惑」がかけられてしまう理由スピン経済の歩き方(5/5 ページ)

» 2018年06月26日 07時40分 公開
[窪田順生ITmedia]
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なぜ「パクリ騒動」は増えているのか

 では、なぜ「模倣を前提に成り立っている」はずの飲食業界で近年、「模倣」をめぐる争いが増えているのか。やはり苦しいからだと思わざるを得ない。

 公益財団法人「食の安全・安心財団」のデータによれば、「居酒屋・ビヤホール等」市場は1992年の1兆4629億円をピークに、2012年の9780億円まで縮小している。翌13年には1兆円規模まで持ち直したが、厳しい状況が続いている。

 この背景には、若者が酒を飲まなくなった、不況だなんだという前に、圧倒的に居酒屋へ行くであろう人の絶対数が減っているという現状がある。官邸のデータでは、生産年齢人口は1997年の8699万人をピークに、2016年の7665万人までがっつりと減少しているのだ。

 居酒屋市場を根底から揺るがす人口減少が、「模倣を前提に成り立っている」という江戸から続く「常識」も足元からぐらつかせている、というのは容易に想像できよう。

 右肩上がりの時代ならば見過ごすことができた「模倣文化」も、業界全体が苦しくなってきたことで看過できなくなってきた。それが顕在化してきたのが昨今続発する、飲食店同士の「パクリ」をめぐるバトルの増加なのではないのか。

 そう考えると、このトレンドがどこへ行くのかもみえてくる。先ほどのデータでは苦境の居酒屋市場と対照的に、「食堂・レストラン」は11年の8兆5462億円から右肩上がりで、16年は9兆9039億円と5年で15%伸びている。

 回転ずし店もハンバーグやパスタなどを提供してファミレス化しているように、酔客を相手にした純粋な居酒屋も、「食堂・レストラン」への転身の動きが活性化されるというのは想像できる。

 そうなると、居酒屋業界の雄・モンテローザが「カミナリステーキ」をスタートさせたという事実もまた違った見方になっていく。

 日本の外食業界が長きにわたって成長エンジンにしてきた「模倣戦争」の次なる主戦場は「レストラン」なのかもしれない。

窪田順生氏のプロフィール:

 テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで200件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。

 近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。


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