<手の出ない住宅価格>
アジアの金融センターである香港は、住宅価格が過去最長となる18カ月連続の上昇を記録しており、世界で最も高価な不動産市場の1つに数えられる。
UBSは昨年公表したリポートで、熟練サービス労働者であっても、20年働かなければ、香港中心部に広さ60平方メートルの部屋は購入できないと指摘した。
不動産コンサルタント会社ナイト・フランクは今月、800万香港ドル(約1億1300万円)という中間的な価格帯のマンションを購入する余裕があるのは、香港の納税者185万人のうち約2割にすぎないと見込んでいる。
今年はさらなる価格上昇が見込まれており、5人の不動産アナリストは全体の上昇率が8─17%程度に達すると予測している。
1990年代以降24件程度の事故物件を購入し、その大半を転売することで利ざやを稼いできた事故物件王のンさんでさえ、この相場上昇には驚きを隠せない。
最近の価格高騰と2回目以降の住宅購入に対する厳しい課税のため、6年間も事故物件を購入できない状態が続いているというのだ。
一輪車の愛好家でもある彼は、今のところ物件の売却を考えていない。所有物件は「宝の山」だからだ。
供給不足と人気の高さを反映して平均的な入居待ち期間が5年とされる公共住宅についても、多くの人々が、あえて訳あり物件を狙う「抜け道」に殺到している。香港住宅局のウェブサイトによれば、こうした訳あり物件には、「不幸な事件があったもの」が含まれている。
昨年9月には、こうした訳ありマンション576室に対して、8万を超える申し込みが香港当局にあったという。
<心理的ハードル>
いわくつきの「幽霊マンション」を巡る問題は、香港住民の不動産所有に対するこだわりと、中国系住民の迷信深く古くからの伝統を追求する傾向とが混在している。後者は、建物が山、風、水といった周囲の自然の力とうまく調和するよう、不動産デベロッパーが「風水」を気にすることにもよく現れている。
事故物件は、同じフロアにあるすべての部屋の価格を下げるだけでなく、上下のフロアの価値も下げてしまうと、不動産代理店は語る。
香港では一般的に、殺人被害者の地縛霊が、特に「出る」と信じられている。人間としての生に未練を残し、悪意による早すぎる死を嘆き、生きているあいだに十分できなかったことを成し遂げたいと願うためだという。
元銀行員の英国人リューリック・ジャッティング被告が2014年に2人の女性を殺害した高級マンションの1室から数戸を隔てた部屋が、昨年売れた。この部屋が前回売買されたのは2011年で、この時から香港の住宅価格は8割以上も上昇しているが、高値で売れた前回に比べて、今回の売却価格は6%低下していた。
「われわれは伝統的な中国社会で暮らしている」と不動産代理店の関係者は匿名を条件に語った。「一部の人々にとっては心理的なハードルがあり、不幸な事件のあった部屋では快適に暮らせないだろう」
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