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“普通の会社員”には無縁!? 蔓延する「副業万歳論」のワナ雇用ジャーナリスト海老原嗣生が斬る(4/5 ページ)

» 2018年07月06日 08時00分 公開
[海老原嗣生ITmedia]

本気でワークシフトするならば

 最後に、ライフシフト派について思うところを述べておきたい。

 「人生100年(労働は80歳まで)」時代では、一つの仕事だけで生きていくことは難しい。その話はよく分かる。だからワークシフトをしなければならない。ただ、それをどのように実現していけばいいのかが問題だ。

 多くの人は、その道筋も分からず、「今までの仕事では通用しない」という焦りだけが高じてしまっているのではないか。結果、その昔、まだ日本が元気だったころに流行った「趣味探し・自分探しに苦慮する人たち」のようなぜいたくな悩みが、形を変えて今まさに広まりつつある。

 私は「人生100年時代」を生きるためのワークシフトについて、2つの考えを持っている。

 (1)1つのことを極めた場合、その極める過程において秀逸な能力が身に付く。そこで身に付けた汎用能力をもとにすれば、他の仕事も結構やっていけることが多い。

 これは企業においても同じことが言えるだろう。フィルムで粒子技術を極めた旧・富士写真フイルム(現・富士フイルム)は、化粧品や健康食品の分野でも素晴らしい業績を残した。東レはもともとレーヨン製造業だったが、今では産業素材の雄として各種先端産業にて大いに業績を上げている。企業が本業で磨いた能力によって他分野でも業績を上げることと、個人が本業で身に付けたスキルによって、ほかの仕事においても力を発揮することは良く似ているのだ。

phot 粒子技術を極めた富士フイルムは化粧品でも業績を上げている(富士フイルムのWebサイトより)

 (2)なぜ通用しない人材となってしまうのか。その最大の理由は、「管理職となり現場を離れる」ことにある。もちろん、管理職を極めて重役にまで達する「極めた派」なら良いだろうが、多くの人は「名ばかり管理職」となって満足している。

 今の世の中は技術の進歩が速く、覚えたことがすぐ陳腐化するといわれる。だが、現実にはそうなっていないというのが私の考えだ。例えば、インターネットが普及して25年にもなるが、実は営業の仕事も編集・制作の仕事も内容自体はそれほど変わっていない。その間、現場仕事を続けていたならば、日々、ホンの少々変化が続くだけのことなので、何歳であっても対応はしていける。

 ところが、管理職として実務を離れてしまうと、この業務更新の流れから外れてしまう。そうして10年もして、例えば役職定年などで現役に戻ると「浦島太郎」となってしまうのだ。

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