横綱の稀勢の里が引退できない、2つの背景赤坂8丁目発 スポーツ246(2/4 ページ)

» 2018年07月13日 08時00分 公開
[臼北信行ITmedia]

どうしても稀勢の里に辞めてほしくない

 稀勢の里は貴乃花の連続休場ワースト記録を抜き、とうとうデッドラインをも超えてしまった。その貴乃花ですら当初同情的だった世間からの声は休場が1年近くたったころから猛バッシングへと変わり、横綱審議委員からも苦言を呈せられるなどして完全な逆風にさらされていた。「平成の大横綱」は現役晩年、このような苦汁を飲んでいたのである。

 ところが稀勢の里は同じような境遇となっているにもかかわらず、周囲は比較的寛容だ。横綱審議委員会も名古屋場所前から今場所での出場を義務付けず、万全な状態での復帰を求めていた。休場を決めた際も北村正任委員長は「休場となったことは残念だが、万全ではないと自ら判断したのだからやむを得ない」「来場所に全てをかけるという本人の決意を尊重したい」などとコメントした。

 優勝回数2回の横綱が“大甘”な言葉を投げかけている一連の流れは、何だが過保護にされているようで率直に言うと気持ちが悪い。大横綱・貴乃花が同じ横審から連続休場中に痛烈なバッシングを受けていた当時を知る者としては、どうしても「エラい違いだな」と感じてしまう。

 横審も含め日本相撲協会のお偉方は、どうしても稀勢の里に辞めてほしくないのだろう。それはそうだ。下り坂とはいえ、今も大相撲のトップは紛れもなく白鵬である。しかしながら、その大横綱は明らかなスーパーヒール。取り口では反則まがいの張り手やかち上げを見せたり、土俵以外でも何かと物議を醸したりすることも多い。

 そうしたマイナスイメージばかり引きずる白鵬に対し、貴乃花以来途絶えていた14年ぶりの日本出身横綱となった稀勢の里にはクリーンな新スター力士として日本の伝統を何としてでも守ってほしいという願望を多くの相撲ファンが持つようになっていった。このような背景と構図が日本相撲協会だけでなく、所属の田子ノ浦部屋など稀勢の里周辺の面々にも誤った考え方を助長させてしまったのだろう。

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