「クールジャパン」迷走の背景に、日本人の“弱点”アリスピン経済の歩き方(7/7 ページ)

» 2018年07月17日 08時12分 公開
[窪田順生ITmedia]
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「日本人は世界のなかでも特別な存在」という選民思想

 そういう人たちが叡智を集結してつくったものが、なぜ日本が泥沼の戦いに突入した時代の「自画自賛本」と瓜二つなってしまうのか。

 「参考にしました」というのならいい。だが、無意識に同じような発想になってしまったとしたら、これほど恐ろしいことはない。

 我々はちょっと気を抜くと、「日本人は世界のなかでも特別な存在」という選民思想にとらわれ、そのような価値観を異国の人たち、異文化の人たちに平気で押し付けてしまう。そんな病的気質があることの証だからだ。

 ご存じの方も多いだろうが、「クールジャパン」というのは、英国で90年代に行われた「クール・ブリタニア」のパクりである。

 この言葉は今や英国人にとって黒歴史扱いだ。自国の文化を「かっこいい」と自慢して、他国へと押し付けようという傲慢さがクールじゃない、というもっともな指摘からだが、もしかしたらこの響きが、よその国を植民地にしてまわった大英帝国時代の「傲慢さ」を思い返させるからかもしれない。

 「帝国」をうたい、自民族が優れていると触れ回るような「傲慢さ」が国を自滅させるというのは、歴史が証明している。

 「躍進日本」で頭がのぼせあがって戦争にボロ負けした過去に学べば、「世界が驚くクールジャパン」とはしゃぎながら、東京五輪や大阪万博という国家プロジェクトに突入すれば大惨敗を喫する可能性は極めて高い。

 「586億円も注ぎ込んでいるんだ、今さら後に引けるか」では70年前と同じく屍(しかばね)の山ができるだけだ。「負け」を潔く受け入れる。どん底から這(は)い上がるため、奢(おご)ることなくコツコツと地道な努力を続けていく。そういう日本人の謙虚さこそ、外国人は「クール」と感じるのではないか。

 引き返すのは今しかない。果たして我々は長く患ってきた「傲慢さ」を克服することができるのか。それともまた同じ負けパターンにのってしまうのか。注目したい。

窪田順生氏のプロフィール:

 テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで200件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。

 近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。


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