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“リーマンショック解雇”を機にフレンチの道へ 元外資金融マンが描く「第3の人生」連載 熱きシニアたちの「転機」(4/5 ページ)

» 2018年07月19日 07時00分 公開
[猪瀬聖ITmedia]

超エリート金融マンの栄光捨てても「今はハッピー」

 身を切る努力と金融業界で培った数字の分析能力が奏功し、売り上げは低空飛行を脱し切れていないものの、利益は一時に比べるとなんとか増え始めた。2年前に借金も完済。「昨年は、1日あたりの売上高が、東日本大震災が起きた2011年3月を下回るほど最悪の年だったが、それでも持ちこたえることができたのは、無借金経営のおかげ」と分析する。

phot 経営上の数値は全てエクセル上で管理している

 ただ、両角さんは、超エリート金融マンとしての栄光をかなぐり捨て、身を粉にしてまで働き、果たして幸せなのだろうか。そう尋ねると、自信満々の笑顔で「今はハッピーです」と答える。

 両角さんは言う。「今思えば、カネのために21年間、苦手な経済学を学んで金融業界で働いてきた。今は自分の苦手なことから解放され、好きなことを思う存分やっている。加えて、たくさんの人たちから応援され、支えてもらっている。例えばFacebookで店の情報を発信したら、高校時代の同級生が、必ずしもそんなに親しくなかった友達も含めて、次々と店に遊びに来てくれた。会社の中で偉くなった大学時代の同級生も、同僚を連れてきたり、接待で使ってくれたりする。金融マン時代に比べると収入は確かに少ないが、上司の下で働くストレスもなく、今のほうがずっと幸せです」

 こんな話もしてくれた。「店に立って常に気にしているのは、お客さんが自分の店で楽しい時間を過ごせたかどうか。店を出る時に『今日はおいしかったです』と言われたら、それは僕の負けだと思っている。おいしいのは厨房の功績。僕にとっては『今日は楽しかったです』と言ってもらえるのがベスト。そう言ってもらえるよう、お客さんと会話してみたり、面白そうなワインを提案してみたり、いかに感動を演出するか常に考えている。そして最後に『今日は楽しかったです』という一言を聞くと、今日も頑張って良かったなと思えるんです」

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phot ランチメニューは充実していたが、両角さんは「『今日は美味しかったです』では僕の負け」だと話す

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