――では、大量人員削減を受け、これからの銀行員に求められるものは何だと考えますか?
これからの銀行員は、特定の分野の専門性を身に着けた「スペシャリスト」になることが求められるのではないか。多くの銀行員はスペシャリストになれていない。
低成長が続く今の日本では銀行員も「量」より「質」が求められる。専門的知見から的確にアドバイスできる銀行員の方が、頼れる存在であることは想像に難くない。
銀行もその点は十分承知しているようだが、体裁を繕っただけの施策ではスペシャリストは輩出できない。通信教育や資格取得を促す制度の拡充などに取り組み、銀行員の専門性を高めると言うが、通信教育を受講しただけではその分野のスペシャリストにはなれないだろう。
――多くの銀行員がスペシャリストになれないのはなぜでしょうか?
現行の「人事異動制度」が銀行員の成長の妨げになっているのではないか。一般的な銀行員はだいたい3年前後で人事異動となり、法人営業部から企画部、審査部――など、部署を転々とする。そのたびに、全く異なる業務を担当することも珍しくなく、この過程で多岐にわたる業務を満遍なくこなせるようになる。そのような人材を「ジェネラリスト」と表現することがあるが、要は「何でも屋」のことだ。
人事異動が頻繁に行われる中では、自然の流れとしてジェネラリストになってしまうわけだが、逆を言えば、このような環境ではどうしてもスペシャリストになることは難しい。
人事異動には顧客との癒着を防ぐ狙いもあるとはいえ、個人のキャリア形成にはあまりメリットはない。3年後にどこで何をしているのか予想できない状況では、専門性を高めるどころか銀行員が自分自身のキャリアパスを描くことも実質不可能な気すらする。
米国の事例を取り上げると、米国では特定のポジションに就くのが基本的な就労スタイル。日本のように数年単位で人事部から突然異動が伝えられ、1週間後から今までと全く異なる業務を担当するなんてことはあまり考えられない。
同じポジションで実務経験を積み重ねていくことで専門スキルを高めていくわけだが、個人の専門スキルを高めたいというのであれば、この米国の人事制度の方が明らかに合理的だと思える。
銀行員自身も組織に頼り切りになるのではなく、今の環境で世の中に求められるスペシャリストになれるのか、もう一度問い詰めて考えるべきだろう。会社の人事評価上の話しではなく、顧客からも本当に評価される人材であるかということだ。
これまではジェネラリストとなんだか聞こえのいい言葉を使うことでスペシャリストになりきれない現実から目を背けてきた節もあるが、現実に向き合う時がきたのではないか。
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