変化と不変の両立に挑んだクラウン池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/4 ページ)

» 2018年07月23日 06時30分 公開
[池田直渡ITmedia]

公道での走り

 今回試乗したのは2.5のハイブリッドと2.0ターボに各1時間。「2.0の試乗時間を30分にして、あとの30分を3.5に乗っていただくこともできますが」とトヨタから言われたが、2.0の高速道路での緩加速制御も見ておきたかった。会場の都合で高速に乗ろうとすると30分ではキツかった。前回のクローズドコースでの試乗で3.5は他2グレードと比べて熟成不足だったことはすでに確認済みなので、今回は見送った。

 さて、まずは2.5ハイブリッドのRS。ノーマルグレードの215/55R17に対して225/45R18の幅広扁平タイヤを与えられたスポーティ系グレードである。

 走り出しはとてもマナーが良い。タイヤと路面のグリップを感じながら穏やかに路面を押し出すアクセル操作にストレスがない。ダメなクルマだと、この制御のために足の裏に神経を集中しなくてはならないし、もっとひどいものだとどうやっても路面を唐突に蹴っ飛ばしてしまう。イメージするのはオートマのクリープで走り出すような穏やかな加速度の高まり方だ。

 できれば信号待ちで前走車が発進していたのに気付いて慌てて加速したいような時でも、急変のない連続的な「加・加速度」で素早く加速したい。蹴飛ばされたようにガツンと加速してはいけない。素早くとガツンは別のものなのだ。ここの出来は素晴らしい。

穏やかでくつろげる室内。エアコンの自動首振りルーバーがいかにもクラウンらしい 穏やかでくつろげる室内。エアコンの自動首振りルーバーがいかにもクラウンらしい

 乗り心地も概ね良いことは前回の試乗で分かっていた。それでもマンホールや路面の穴の乗り越えを試せるのは今回が初めてだ。恐らくノーマルサイズの17インチ55扁平なら穏やかなタイヤ銘柄の手助けもあってさらに素晴らしかったと思うが、18インチ45扁平という仕様からイメージするほどには悪くない。17インチの乗り心地を知らなければ黙って過ぎてしまうところだ。

 片側一車線の田園風景の中を緩やかなカーブを描きながら走っていると、ぬるい風呂に肩まで浸かって、足の指を全部広げて大きく伸びをするような安堵感がある。一番心配していたのは、こういうクラウンならではのおっさんセダンの世界が残っているかどうかだった。

 クラウンの主査は、いわゆるできる系のエネルギッシュな人で、何と言うか弱音を吐きそうに見えない。クラウンの主査を任されるとなれば大トヨタのエースなので、できる男感が漂うのは当たり前と言えば当たり前なのだが、そういう生活臭い諸々をガシャガシャとテーブルから薙ぎ払って、綺麗な更地にガラス張りのビルを建てていないだろうかと心配していたのだ。

 高負荷域ではいかにも体脂肪率が低そうな身ごなしを見せたクラウンだったが、日常域では、ちゃんと疲れたおっさんを労る包容力が確認できた。その世界は安楽で快適。このまま家まで帰ってしまおうかと思った。

 高速で試したかったのは、ここ最近投入された新しいTSS2(トヨタ・セーフティーセンス2)である。自動系のブレーキとレーダークルーズに、車線の中央をキープするLTA(レーントレーシングアシスト)を加えたトヨタの第2世代運転支援システムである。裏面照射型の撮像素子を使ったカメラによって、夜間での障害物認識能力を著しく向上させたことを筆頭に全ての能力が高められている。このあたりは電子デバイスや処理能力が日進月歩で進化しているので、冷静に言えば当たり前なのだが、仕上がりについて1つ特筆すべきことがあった。

 それはLTAの出来の良さだ。新型クラウンはステアリングコラムに仕込まれた振動吸収用のゴムカップリングを廃止した。その仕組みは先日の記事で詳細に書いたので省くが、これとLTAの相性がとても良い。ゴムのしなりがなくなった分、わずかな入力を検知してくれるので、10時10分でハンドルを握ってさえいれば「ステアリングを操作してください」という警告が鳴らない。同種のシステムは用もないのにドライバーが時々ハンドルを切ってやらないと「手放し運転」だと見なして警告してくることが多い。クルマが操作を必要とせず直進している時に、ハンドルを握っていることの証明のためにわざわざ無駄に操作するのはどうも納得がいかないし、厳密なことを言えば無駄な操作はわずかなりともクルマの姿勢を崩すから安全上もよろしくない。

TSS(トヨタ・セーフティセンス)が第2世代になって、車線中央をキープすることが可能になった TSS(トヨタ・セーフティセンス)が第2世代になって、車線中央をキープすることが可能になった

 クラウンのLTAはそういうことがなく、ほぼ腕の重みだけでステアリングを握っていると判断してくれる。ちなみに肝心な車線中央キープの微舵操舵も上手で、進路修正時に変な揺れを誘発しない。レーダークルーズの加減速も違和感がない。これなら長距離ドライブはさぞかし快適だろう。

 2.0のターボはどうか? クローズドコースではあたかもライトウェイトスポーツのようなキレた走りを見せた2.0ターボだが、こちらにもちゃんとおっさんセダンらしさが残されていた。2.5ハイブリッドには「太くて強い」印象があり、どっしり感は軍配が上がるが、2.0ターボは「細くて軽い」印象があり、そのすっきり感には別種の良さがある。確かめたかった高速道路での緩加速も、トルクデリバリーの線の細さや過給による非連続感はなく、うまくこなした。

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