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「定年後再雇用」の注意点は? 人事担当者必見の「働き方改革」用語解説必須キーワードを識者が解説(2/3 ページ)

» 2018年08月02日 08時30分 公開
[高仲幸雄ITmedia]

(2)非正規社員(有期契約・パート社員)であることを理由とする待遇差

 もっとも定年後再雇用者であれば労働条件の設定は全く自由であるかというと、そうではありません。非正規社員であることを理由とした待遇差の規制に注意する必要があります。

 まず、労働契約法20条やパートタイム労働法8条の「均衡待遇」に関する規制、同法9条の「均等待遇」に関する規制(これらの規制は、2018年6月の法改正によりパート・有期法8条および9条に移行されます)があります。

 これらの規制は非正規社員であることを理由とする待遇差を規制するもので、法違反は(1)職務内容、(2)職務内容・配置の変更範囲(人材活用の仕組み)、(3)その他の事情(ただし「均等待遇」に関する規制は(1)(2)のみ)に照らして判断されます。この点、定年後再雇用者の待遇について労働契約法20条違反が問題となった長澤運輸事件の最高裁判決(2018年6月1日)は、定年後再雇用である点を上記(3)の「その他の事情」として考慮しています。(編集部注:長澤運輸事件は、定年退職後に嘱託社員として再雇用された運転手が、正社員の頃と全く同じ業務をしているにもかかわらず賃下げするのは違法だと提訴した事件)

photo 長澤運輸事件の最高裁判例(「最高裁判例」 裁判所のWebサイトより)

 長澤運輸事件では、結論的には精勤手当と超勤手当(時間外手当)の待遇差のみが労働契約法20条違反と判断されましたが、同事件は再雇用時の賃金(年収)が定年退職前の79%となることが想定されていたケースでした。そのため長澤運輸事件の判断枠組みによっても、定年後再雇用時の労働条件について、(1)職務内容と(2)職務内容・配置の変更範囲(人材活用の仕組み)が正社員時(定年退職前)と全く同じにもかかわらず、賃金だけが大幅に引き下げられるとなると、労働契約法20条違反(不法行為)と認定される可能性があります。

 対応としては、例えば定年後再雇用時には再雇用契約書などによって正社員時(定年退職前)よりも業務内容や職責を限定・軽減しておき、職務内容(上記(1))の違いを明確化しておくことが考えられます。ただし、賃金の中でも個別の手当レベルでみると、職務内容とは関連しないものもあり、職務内容に違いを設けたことによって待遇差が全て正当化されるわけではありません。

 長澤運輸事件の最高裁判決でも、定年後再雇用である点を(3)の「その他の事情」で考慮するとはしましたが、実際の紛争(裁判)において、どの程度考慮されるのかはケースバイケースです。

 今後、各企業においては、同一労働同一賃金(非正規社員の処遇改善)に関する法改正の対応として、正社員と非正規社員の賃金(各種手当を含む)や福利厚生などの待遇差を比較・検討して、不合理な待遇差を是正することが必要になります。その際は、定年後再雇用者も併せて検討しなければなりません。

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