会社の数字〜注目企業を徹底分析〜

値上げをしたのに客数が増えた焼き肉店の謎どんなからくりなのか(2/4 ページ)

» 2018年08月03日 06時00分 公開
[三ツ井創太郎ITmedia]

2%の原価率アップはなぜ死活問題なのか

 一般的に都心にある席数40席程度の焼き肉店の標準月商は600〜700万円程度です。

 例えば月商600万円の焼き肉店だとして、2%原価率が上昇すると年間どのくらいの利益が減るのでしょうか? 単純に計算すると600万円×2%×12カ月=年間144万円となります。こちらの会社は4店舗展開していますので、全店で年間576万円の利益が減少することになります。どうでしょう? 皆さんもこの数字を見ると「値上げは嫌だけど、やむを得ないなー」という気持ちになりませんか? さすがにこちらの飲食店のオーナーの方も「もうこれ以上は我慢できない!」ということで値上げを本格的に検討しました。

 値上げを行う際には、十分注意しなくてはなりません。ただやみくもに値上げをしたら良いかというとそうではありません。失敗しない値上げを行うためには2つのポイントを押さえておく必要があります。

(1): 価格認知商品とぜいたく商品

 値上げを行う際には、商品を「価格認知商品」と「ぜいたく商品」という2つの視点で見ていく必要があります。価格認知商品とは具体的に言うと「その商品の価格を顧客が認知している商品」となります。顧客はその商品の価格を覚えており、その価格が来店動機に直結している商品です。

 顧客はこうした商品の値上げに対しては非常に敏感です。さらにはこうした商品は出数構成比が高い(つまりオーダーする人が多い)ため、値上げによって悪印象を与える人数も多くなります。逆を言えばこうした価格認知商品の値段を下げることで来店動機を喚起できます。例えば「生ビール290円!」といった価格訴求戦略が該当します。

 一方でぜいたく商品とは、その名の通り「顧客が価格よりもその商品の高級性、ぜいたく性を気にする商品」となります。つまり、飲食店の値上げをする際には価格認知商品の値上げは行わず(または最小限にとどめ)、ぜいたく商品の値上げを行うという戦略も重要です。

 今回の焼き肉店で実際に行った戦略を具体的に説明すると、オーダー率が高い「並カルビ」「並ロース」といった価格認知商品の値段は据え置く一方で、「厳選カルビ」「特上ロース」といったぜいたく商品に関しては値上げを行いました。その結果、来店者数の減少は全くありませんでした。

 実際に皆さんが行きつけの焼き肉店に行った際に、今まで890円だった和牛並カルビが1000円に値上げされていると「お〜高くなったな!」と感じると思います。一方、1400円だった和牛特上カルビが1510円に値上げされても、どちらも同じ110円の値上げですが、並カルビ程の“値上げ感”は抱かないでしょう。つまり、和牛特上カルビ=ぜいたく商品は並カルビ=価格認知商品に比べて値上げしやすいという特性があるのです。

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