高橋: とにかく失敗を繰り返しましたが、飼育環境を変えるだけで食材の質が変わることが分かってきました。
土肥: 飼育環境を変える? 円筒状のモノがダメだったのでしょうか?
高橋: いえ、そうではありません。以前は両生類用のエサを与えていたのですが、それを食べたコオロギは臭い。小さなころからきれいな環境のなかで育て、栄養を考えたエサを与え続けると、味も臭みも違ってくることが分かってきました。
先ほども言いましたが、牛や豚をおいしく食べる方法はこれまでさまざまな研究が行われてきました。しかし、昆虫は違う。この虫をおいしくするためにはどうすればいいのか、といった研究はあまり行われてきませんでした。ということは他の食材と同じように、おいしくするためにさまざまな実験を繰り返せば、食材として使えるようになるのではないかと考えました。
コオロギを分解していたときにコオロギの脚の中にとても美しい肉を発見した。今までグロテスクに見えていた昆虫が食材に見えるようになったきっかけとなる。この発見がのちのハンバーガーに通じる
土肥: 飼育環境を変えればおいしくなるというのは、他の動物でも同じですよね。同じことがコオロギでも当てはまるというのは、興味深い。次にどんなことを行ったのでしょうか?
高橋: コオロギをバラバラにして、この部位はどんな味がするのか、あの部位はこうした味がするのか、といった具合に検証していきました。同時に、食べられるところ、食べられないところを探すといったことも研究しました。触覚を取ったり、足のギザギザを取ったりすることで、味がよくなりました。臭みが少しとれるほかに、口触りがよくなるんですよね。
土肥: どんな味がするのでしょうか?
高橋: ちゃんと育てると、いい意味で無味無臭。ですが、食べていくと特徴が出てくるといった感じですね。コオロギの場合は、エビの味によく似ていると言われていますが、どこか違う。エビは海の香りがしますが、コオロギは陸の香りもする。
土肥: なるほど。本来記者であれば実食しなればいけないのですが、今日は満腹なので遠慮しておきます。次回は必ず(汗)。
高橋: このほかに、コオロギから肉を取り出すこともしました。分解すると、ちゃんと肉があるんですよね。1匹から1グラムも取れませんが、ひたすら集めてハンバーガーをつくってみました。時給に換算すると、ハンバーガーの価格は1個4万2000円。このような話をすると、「やっぱり、昆虫食を市場で流通させるのは無理だな」といった声をよく聞くのですが、1個4万2000円のハンバーガーが売れるとは考えていませんし、人類を救う食になるとも思っていません。ただ、非効率なモノを見てもらうことで、反響がものすごくあることが分かってきました。
純粋な昆虫の肉だけを用いてつくったパテのハンバーガー。殻や触角などを一切含まず昆虫の肉だけを抽出。また昆虫には各々食材としての特徴があるため複数の昆虫の肉を混ぜ合わせることで既存の肉とは異なるものを生み出した
コオロギの肉を見て、エンジニアの人からは「自分がやればこの肉を遠心分離機にかけて、効率よくとることができるかも」とか、生物学を専門にしている人からは「遺伝子を組み替えれば、肉だけを簡単に取り出せるようになるかも」といったアイデアが出てきました。また「自分は買えないけれど、高級店で販売すればおもしろいかも」といった声もありました。
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