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オオグソクムシにウミグモ! 不気味な深海生物を食べ続ける水族館員のシンプルで真摯な理由新連載:ショボいけど、勝てます。 竹島水族館のアットホーム経営論(6/6 ページ)

» 2018年08月09日 07時30分 公開
[大宮冬洋ITmedia]
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お客さんにいかに楽しく魚たちを見て知ってもらうかを常に考える

 「僕のグルメハンター活動を『殺生だ』とメールでお叱りを受けたこともあります。遊び半分で食べているのだと思われたのかもしれません。でも、体内に何を蓄えているのか分からない生物もいるので、口にするときは命の危険を感じることもあります。今まで一番身構えたのはヤマトトックリウミグモですね。明らかに食べてはいけない外見です。当時は一人暮らしだったので、いつでも救急車を呼べるように携帯電話を片手に持って試食しました。もちろん、味だけ確かめて飲み込まずに吐き出しましたが、とても遊びでできることではありません」

phot ヤマトトックリウミグモ。「腕はスカスカなので、内臓を絞り出して味見しました。カニ味噌みたいな風味です」

 三田さんが不気味な深海生物を食べ続ける理由はシンプルかつ真摯なものだ。深い海から水族館にやってきた生物を捨てるのではなくスポットライトを当ててあげたい、その内容をお客さんに伝えて知ってもらいたい。この気持ちに尽きる。

 「(館長の)小林さんから教わったことは多いですが、一番は『魚好きの自分中心ではなくお客さん中心に動け。お客さんあっての自分たちだから』ですね。今では、お客さんにいかに楽しく魚たちを見て知ってもらうかを常に考える習慣ができました」

 竹島水族館の飼育員たちにとって一番大事な場所は、大好きな魚たちがいる水槽ではなく、お金を出して訪れてくれる客のいるフロアなのだ。三田さんもその場に立ち、客の声を聞き、客の動きを見続けることで「グルメハンター」を思い付いた。子どものころからコイや金魚を食べてきた自分にしかできない、客にも必ず喜んでもらえる企画である。

 きちんと需要があり、他人がまねしにくい個性的なサービスを作った経験は、三田さんにとって大きな自信となり、次の企画を生み出す基盤にもなっているはずだ。三田さんは今、唯一無二の飼育員として活躍のときを迎えている。

phot 三田さんは主任飼育員として若手の指導をしつつ、両生・爬虫類の飼育も担当。カメの水槽前にて今日も接客中

著者プロフィール

大宮冬洋(おおみや とうよう)

1976年埼玉県所沢市生まれ、東京都東村山市育ち。一橋大学法学部卒業後、ファーストリテイリング(ユニクロ)に入社するがわずか1年で退社。編集プロダクション勤務を経て、2002年よりフリーライター。2012年、再婚を機に愛知県蒲郡市に移住。自主企画のフリーペーパー『蒲郡偏愛地図』を年1回発行しつつ、8万人の人口が徐々に減っている黄昏の町での生活を満喫中。月に10日間ほどは門前仲町に滞在し、東京原住民カルチャーを体験しつつ取材活動を行っている。読者との交流飲み会「スナック大宮」を、東京・愛知・大阪などで月2回ペースで開催している(2018年7月現在で通算100回)。著書に、『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました』(ぱる出版)、『人は死ぬまで結婚できる〜晩婚時代の幸せのつかみ方〜』(講談社+α新書)などがある。 公式ホームページ https://omiyatoyo.com


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