日本人が「ある程度の暴力は必要」と考える、根本的な原因スピン経済の歩き方(4/7 ページ)

» 2018年09月11日 08時35分 公開
[窪田順生ITmedia]

「暴力は子どもを正しく導くための愛のムチ」思想

1976年にヒットした、松田優作主演の映画『暴力教室』

 そんな「暴力=教育の最終手段」という思想は、当時ヒットしたドラマや映画にもよくあらわれている。76年にヒットした、松田優作主演の映画『暴力教室』は、元プロボクサーの教師が、体育会の生徒たちに妹を殺されて復讐するというバイレオンス活劇だ。82年には拳銃所持を許された教師が、不良生徒をとっちめていく漫画『ビックマグナム黒岩先生』が人気となり、85年には横山やすし主演で映画化された。そして、84年には「俺は今からお前たちを殴る」の名セリフで知られる伝説のスポ根ドラマ『スクール☆ウォーズ』が放映される。これらの作品に共通するのは、「暴力は子どもを正しく導くための愛のムチになりえる」という思想であることは言うまでもない。

 こういう暴力容認の大きな流れができると、最終手段どころか日常的に暴力指導を実践される方たちもあらわれていく。中でも有名なのが、いわゆる問題児を預かって、ヨットで厳しく鍛えて更生させる「戸塚ヨットスクール」で一躍時の人となった戸塚宏氏だ。

 訓練中に少年が亡くなって、戸塚氏らが監禁・傷害致死の容疑で逮捕されると、日本中は「戸塚氏は教育者か、犯罪者か」というテーマで大激論が繰り広げられる。ただ、その議論のベースとなる感覚も、現代と比べるとかなり違っていたことが、当時のマスコミ報道からも分かる。

 戸塚氏の逮捕後、竹刀や棒を押収されたスクールでの訓練風景を取材したマスコミは、さも当たり前のような感じで、このようなことをサラっと言ってのけている。

 「時折、訓練生の背中や腹にとぶコーチの平手やげんこつも体罰といえるようなものではなかった」(日本経済新聞 1983年7月4日)

 速見コーチが女子選手をビンダする衝撃映像にドン引きした人も多いかもしれないが、ほんの30年前の日本人はああゆう光景を見ても、「いやあ教育熱心なコーチだね」くらいにしか思わなかったのである。

 では、日本人の大半がとらわれている「指導・教育現場にある程度の暴力は必要」という思想がすべてこの時代に生まれたのかというと、そうとは言い難い。

 50〜60年代はもちろん、戦中、戦前、江戸時代やそれ以前にも、子どもや弱い立場の人間への暴力、体罰というものは山ほど確認されているからだ。

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