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「地方の障害者雇用」を創出するリクルートのテレワーク働き方改革で「地方格差」なくせ(3/5 ページ)

» 2018年09月19日 08時30分 公開
[田中圭太郎ITmedia]

北海道で広がった採用のネットワーク

 地方在住者を在宅で雇用すると決めたものの、北海道に縁ができたのは偶然だった。旭川市が、撤退した大学の建物を首都圏の企業のサテライトオフィスに利用するという実証実験をしていると聞き、視察したのがきっかけだ。

 旭川市役所の担当者に、障害者の就職や生活を地域でサポートしている「障害者就業・生活支援センター」を紹介してもらった。担当者にリクルートの仕事を説明し、働く意欲のある人を紹介してほしいと頼んだ。

 「最初はテレビ電話で仕事をしますと説明しても、相手の方の顔が、本当に鳩が豆鉄砲を食らったようになって、理解できないという反応でした」(三井さん)

 最初は困惑されたが、実際に雇用すると、市役所のケースワーカーや、支援センター職員のネットワークによって口コミが広がった。いまでは名寄、富良野、小樽など北海道内の各地で採用している。北海道以外では17年12月に沖縄でも採用した。

 採用の流れはこうだ。まず地域の障害者就業・生活支援センターとハローワークに声をかける。そのあと、現地で就労支援機関向けの説明会、続いて障害者向けの説明会を開く。その2、3週間後の採用選考会では30分ほどの面接と簡単な実技試験をして、採用予定者を絞る。最後に自宅を訪問し、在宅勤務ができる環境かどうかを確認するのだ。本人が体調を崩したときに連絡が取れる家族や支援機関にあいさつをしたうえで、採用を決定する。

 「支援機関や市役所の方が声をかけて応募してくる人の中には、生活保護を受けている方もいますし、子どもを複数抱えながら頑張っているシングルマザーの方もいます。何とか採用したいと思う人もいるものの、私たちは福祉ではなく、普通通りに仕事をしてもらうのが目的なので、ITリテラシーや文章の読解などはある程度クリアしてもらわなければなりません。条件さえクリアしてもらえれば、在宅で仕事をすることに必然性があって、在宅だからこそ頑張れるという人を採用したいと考えています」(三井さん)

phot テクノロジーによって東京のオフィスと地方をつなげられるのはテレワーク文化が進んだリクルートならではの強みだろう(写真はリクルートオフィスサポートの在宅雇用開発室)
phot 在宅勤務者全員にPCやヘッドセット、マウスなどを必要に応じて貸与している(リクルートオフィスサポートの提供資料より)

時給は東京都の最低賃金

 在宅雇用された人は「在宅勤務社員」(契約社員)となり、給与は時給で支払われる。その時給は住んでいる場所ではなく、東京都の最低賃金985円に合わせた。三井さんによると、最初から東京と地方で差を付けるつもりはなかったという。一方で、東京都の最低賃金をベースにしたことで、応募が集まりやすいというメリットが生まれているのだ。1日6時間勤務したとして20日間働いたとすると月収は優に10万円を超える。

phot 入社6か月面談時の在宅メンバーの声(同社提供資料より)

 在宅勤務社員として16年10月から働く北海道旭川市在住の吉崎健一さん(35歳)に、東京のオフィスから仕事用のSkypeで話を聞いた。学生時代、アルペンスキーの国体選手だった吉崎さん。理系の大学を卒業後、設計の仕事をしていたものの、統合失調症により働けなくなった。その後は就労支援機関でパンの製造をしていた。

 「在宅勤務は人と接することが少ないので、精神的な負担は軽く感じられます。かといって、全く人と話さないのも良くないと思います。Skypeやチャットを使って会話をするいまの距離感がちょうど良くて、以前よりも対人関係に自信が持てるようになりました」

 吉崎さんは自分のペースで仕事ができることで、体調管理も自分でできると話す。

 「上司も仕事仲間も障害に理解がありますので、『疲れたら休んでくださいね』と言葉をかけてくれます。以前の会社だと障害自体をオープンにできませんでした。体調を報告しやすいのは大きいと感じています」

 周りが気遣ってくれることが、安心して働ける要因になっている。在宅勤務は特に精神障害のある人と相性が良いようだ。

phot 筆者(画面・右)の質問に心を込めて答える北海道旭川市在住の吉崎健一さん(左)。在宅勤務によって精神的な負担を下げられるのだ
phot 朝、在宅勤務者の体調を3段階で入力し、理由も記載してもらう(同社提供資料より)

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