さらに驚くべきことに、ファルコンヘビーの第一段ロケットは自力で地上に戻り、再利用できる仕組みになっている。第一段ロケットの切り離し後、地上に向けて落下を開始し、地上付近でエンジンの再点火(逆噴射)によって、垂直に自立する形で着陸する映像はまるでSF映画の光景だった。
ファルコンヘビーは多数の小型ロケットを束にした構造になっているが、各エンジンの微妙な出力制御がカギとなる。ロケット・エンジンでこうした制御が実現可能となった背景には、エンジンそのものの機械的なイノベーションがあったことはもちろんだが、ソフトウェア技術の発達を抜きには語れない。前澤氏の月旅行に使用される、ビッグ・ファルコン・ロケット(BFR)にも関連技術がふんだんに活用されることになるだろう。
マスク氏と前澤氏は、費用について言及しなかったが、数人の搭乗で数百億円と言われている。乱暴に言ってしまうと、1人100億円で月に行くことが可能となったわけである。
現在、大型の人工衛星を周回軌道に投入するためには100億円以上の費用が必要だが、宇宙ベンチャーの活動が拡大すれば、そのコストを10分の1以下にすることは十分に可能である。今回、月の周回軌道に1人100億円で行けることが明らかになったので、確実にコストのケタは小さくなっている。
では前澤氏にとって、数百億円の資金を投じて月に行くことは合理的な判断なのだろうか。
今回の月旅行について、前澤氏の夢を実現するためだけのプランと考えた場合、投資対効果について議論してもあまり意味はない。夢がプライスレスなのは議論の余地がないからだ。
だが前澤氏ほどの起業家が、投資対効果を考えずにお金を支出するとは考えにくい。前澤氏がアートに対して惜しみなくお金を投じているのも、欧米社会においてアートにお金を出す実業家がどう見られるのか、周到に計算した結果である可能性が高い。
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