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» 2018年11月05日 06時30分 公開

池田直渡「週刊モータージャーナル」:上からも下からも攻めるトヨタ (1/3)

トヨタは2つの発表をした。1つは「KINTO」と呼ばれる「愛車サブスクリプションサービス」。もう1つは販売チャネルの組織改革だ。ここから一体トヨタのどんな戦略が見えてくるのだろうか?

[池田直渡,ITmedia]

 11月1日、トヨタ自動車は2つの発表をした。1つは「愛車サブスクリプションサービス」。つまり定額制でクルマを乗り換えられるサービスで、豊田章男社長自身が「西遊記」の觔斗雲(きんとうん)から「KINTO」と命名した。もう1つは販売チャネルの組織改革だ。

コネクティッドの説明会で仲間づくりを訴え「この指とまれ!」と大きなアクションを見せる豊田章男社長 コネクティッドの説明会で仲間づくりを訴え「この指とまれ!」と大きなアクションを見せる豊田章男社長

KINTOとは何か?

 まずはKINTOから。クルマを定額で乗り換えるサービスはすでにいくつかの先例があるが、実のところそれほど大ヒットには至っていない。さらにトヨタの手掛けるKINTOが、それら先行例に価格も含めた競争力で簡単に勝てるかと言われれば、そういうものでもなさそうだ。

 定額サービスと言うと、「今日はレクサスLS。明日はランドクルーザー・プラド。その翌日は新型スープラ」というようなことをイメージするかもしれないが、それは現実的には不可能だ。まずは法的な関門がある。車庫証明は警察署に申請後、発行されるまでに一般に4日ほどかかる。そのほかにもやれ印鑑証明だ、本人確認書類だと面倒な事務手続きが多い。だから猫型ロボットのポケットからひみつ道具を出すようにいろいろなクルマをホイホイ乗り換えるという話は夢に過ぎない。

 このあたりは、諸外国と比べてはん雑な日本の行政手続きの影響も大きいが、仮に行政がそういう制度に何らかの歩み寄りを見せたとしても、ディーラーが取り扱い全モデルのグレードや仕様やボディ色を総当たりで常時在庫して、秋の空みたいな顧客ニーズに対応できるかと言われればできるわけがない。第一、KINTOの対象になるのは新車ということになっている。新車から新車へ数日で取り替えられる定額サービスは一体いくらになるのか。

 クルマの製造には膨大なコストと時間がかかる。ハンバーガーみたいに、番号札をもらってコーラを飲みながら待っている間に新車がテーブルに届くわけではないのだ。

 現実的には、KINTOは従来のリース契約に極めて近い形になるだろう。サービスの詳細はこれからというものの、最短でも半年、常識的に考えれば2年程度で乗り換えることを前提にしたシステムだと考えられる。

 対象として見込まれるのは、「納税や保険やメンテナンスなどの面倒ごとを全部まとめてトヨタ側でやってくれるなら余分に金を払っても構わない」という富裕層で、かつ毎年取っ替え引っ替え、気になるクルマに乗ってみたいクルマ好きだ。コスト換算できるメリットとしては、所有や維持に関する面倒を多少軽減する程度の効果しかないだろう。法人契約で考えれば、クルマが資産に計上されないメリットがあるので、購入して減価償却分だけ経費にするより、節税の効果が期待できる。ただし、それはリースでも同じことだ。

 それでも当分の間、自動運転に近づくべく日々進歩する運転支援システムの最新版を試したり、こちらも機能追加がどんどん進むと思われるコネクティッドの最新機能を使ってみたいという好奇心を満たすには良いかもしれない。しかしながらそんな顧客はそれほど多くない。

 では、トヨタは一体なぜそんなサービスを今リリースするのか? トヨタの言い分としては、MaaS(Mobility as a Service)に向けて、チャレンジしながらノウハウを蓄積していくのだと言うが、筆者には違う見立てがある。それは販売店にMaaSの経験を積ませるためだ。

 日本の海軍軍人、山本五十六の有名な言葉に「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」という言葉がある。2018年が明けて以降、トヨタは盛んに自動車メーカーからモビリティカンパニーへの変革を唱えてきた。全社を挙げてMaaS戦争に突入していくには最前線である販売店の意識を改革しなくてはならない。とにかくこれまでの自動車販売とは違う、モビリティサービスを実際に「させてみる」のがKINTOの狙いだと筆者は考えている。これで全て得心がいく説明にはなってないと思うが、腹落ちするにはもう1つの新戦略の説明が必要だ。

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