「教壇に立つ私の携帯が鳴った。授業を中断し、急きょ新神戸へ。列車が滑り込んできた時、医師から携帯へ。『心肺蘇生を打ち切ってよいか』。私は訳も分からず、『止めないで! 息子を助けて!』と叫んだ。看病どころか、息子の命は風前のともしび。母は何もしてやれない。
夕方逢えた息子はすでに冷たく、横たわるだけ、何も答えない。懸命に生きた一人の青年の命が尽きた。母一人子一人、幸せな我が家の終焉(しゅうえん)。私の人生も終わった」
これは、先日厚生労働省が公表した2018年版「過労死等防止対策白書(過労死白書)」に書かれていた一節です。
女性(母親)の息子さんは、大手電気機器メーカーの関連会社にSE(システムエンジニア)として入社。即戦力として働かされ、37時間連続勤務、終電後は会社で仮眠する日々を繰り返し、うつ状態になったそうです。
息子さんのブログには「日本人って何でこんなに働くのでしょうかね。うつの原因は確実にお仕事です。このまま生きていくのがつらい。普通に働いて普通に生活をしたいものです」といった、多くの苦しみの言葉がつづられていました。彼はうつの治療薬を過量服用し、27歳で生涯を閉じてしまったのです(自死か事故かは不明)。
今から2年前の2016年10月7日。大手広告代理店に勤務していた24歳(当時)の女性(高橋まつりさん)が15年12月に投身自殺したのは、長時間労働を原因とする過労死だったと大きく報道されました。
くしくもその日(10月7日)は、「過労死白書」が初めて公表された日。この白書は、14年に制定された「過労死等防止対策推進法」で義務付けられたもの。過労死遺族たちの「過労死をなくそう」という活動が、やっと実を結んだ末の法律だったのです。
おそらくご遺族たちは若い女性社員の過労自殺を知り、「絶対に過労死をなくさなくては」と激しい憤りを覚えたに違いありません。
しかしながら、今回発表された白書によると……、
といった具合に、「働く人たちの厳しい現実と苦悩」が続いている現状が浮き彫りになってしまったのです。
そもそも電通の女性社員の事件以来、「長時間労働」ばかりに関心が集まっていますが、長時間労働だけを規制しても「過労自殺」はなくなりません。
「過労死」と「過労自殺」は全く別物なのです。
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