中国発「遺伝子操作ベビー」の衝撃 “禁じ手”を使った人類の未来世界を読み解くニュース・サロン(4/5 ページ)

» 2018年12月06日 07時00分 公開
[山田敏弘ITmedia]

「健康な子供を」と願う人は多いのではないか

 いずれにせよ、こうしたゲノム編集の議論を見ていると、やはりゲノム編集はやってはいけないものなのか、と考えさせられる。そして、腑に落ちない部分も残る。

 例えば、自分の子供が重病で生まれることがDNAであらかじめ分かっていて、技術的にゲノム編集の改変でその病気の発症を避けられるのに、それを「倫理的に問題だから」と何もしないことが果たしてできるのだろうか。専門家の中には、それが許されるようになったら、さらにゲノム編集が拡大していき、他人よりも優秀なDNAを設計して子供をつくるケースも出てくると批判する向きもある。確かにそれも分からなくない。

 だがそもそも、すでに妊婦の中には出生前診断をして染色体や遺伝子異常の有無を調べている人もいる。もちろんこれはゲノム編集とは全く異なるものだが、それでも、母親になる人の中には、子供の誕生後の健康状態を知りたいと思っている人も少なくない。その結果によって、出産を断念する人もいる。

 2018年3月19日付の朝日新聞によれば、「妊婦の血液で赤ちゃんにダウン症などがあるかどうかわかる『新型出生前診断(NIPT)』では、この検査で(赤ちゃんの)病気がわかった夫婦の95%以上が人工妊娠中絶を選ぶことから、『安易な中絶が増えている』と批判する人が多い」と報じている。

 おそらく全ての親が、健康な子供が生まれてほしいと願っているはずで、それがゲノム編集で可能になるならやってみたいと思う親は少なくないだろう。その願いが「人類の未来」よりも重要だと感じる人も多いかもしれない。

 もっと言えば、賀建奎・副教授のような“実験”に踏み出さなければ、この分野に今後進歩はないのではないか、とも考えてしまう。何が起きるのかは、やってみなければ分からない部分もある。ある専門家の「X線検査や陽電子放出断層撮影だって、放射線量がゼロになるまで待たずに実用化している」という指摘を読んだことがあるが、それもある意味で納得でき、ゲノム編集のリスクと同じく「危ない」と頭ごなしにその有効性を排除するべきではない。

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