さて、こうした経緯を知らずに、『えちてつ物語』の主人公、元お笑い芸人の山崎いずみ(横澤夏子)は福井に帰ってくる。兄(緒形直人)夫婦が経営するそば屋に身を寄せるけれども、実はいずみは芦原温泉の芸者の娘で、亡父が引き受けた養女だった。兄の厳しい言葉に居心地も悪く、自立するためにえちぜん鉄道のアテンダントになる。
いずみは当初、お客さま案内係として明るく振る舞えばいい、と軽く考えていたけれども、老女や妊婦、はしゃぐ高校生など、さまざまな客と向き合う仕事の重さに打ちひしがれる。しかし、物語後半のある事件で、アテンダントの意味に向き合い、えちぜん鉄道の社長(笹野高史)らの心を動かす。誰かを思いやる気持ちが大切、そこに気づいたとき、兄の優しさを知り、家族のつながりを取り戻すのであった。
観光地の研修と称して沿線の観光地をバッチリ紹介するなど、地方振興映画の要素もちゃっかり仕込んでいる。えちぜん鉄道の短い列車が風景の中をさわやかに駆け抜ける。福井駅前や勝山駅前の恐竜像など、知らない人にとっては興味深いだろう。福井・勝山は恐竜の化石発掘で世界的にも知られた場所だ。劇中には出てこないけれど、勝山市の福井県立恐竜博物館は世界三大恐竜博物館である。
物語の終盤にかけて、福井の人々は「さぎっちょ」と呼ばれる祭に向かってそわそわしていく。さぎっちょとは、勝山の左義長祭のこと。これは300年も続く火祭りで、町内会ごとに屋台を出して、踊りながら太鼓を打つ「浮き太鼓」も描かれる。劇中の見どころの一つ。
鉄道ファンとしての見どころはえちぜん鉄道の福井駅の場面。ロケが行われた時期は現在の駅舎の完成前。北陸新幹線の高架区間を借りた仮駅舎だ。地方鉄道が新幹線の高架施設を間借りするという珍しい現象が、この映画で収められている。資料映像としても貴重と言える。
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