返報性の原理という概念があり、ちょっとした誉め言葉や小さな恩のために、人間はその見返りに驚くほど大きなものを犠牲にすることがある。また、人のためという「利他」の精神に基づくと、自らの損失を度外視して、過剰な自己犠牲をする傾向があることが知られている。勤め先がブラック企業だと自覚しているのに、上司に会社への貢献を褒められるのが嬉しくて、自分の生活を顧みずに疲弊してしまうことなどが典型例だ。
戦争という生死に直結する、そして、死んで来いと命令されかねない極限状況は、ブラック企業の非ではない。さすが、ギレンはIQ240の天才であって、政治や軍事だけではなく、行動経済学や心理学をしっかりと学んでいたのだろう。もっとも、マニュアルとして理解しているだけで、身近な人間(特に妹)への理解や共感性は高くなかったようだ。
一般に、国力は、GDPといったフローの経済指標だけでは測れず、保有する資源や資産というストックも含めた、広い概念である。また、経済力だけではなく、軍事力も含める場合もある。
例えば、ロシアは世界最大の核兵器保有国であり、軍事支出が高いため、国力が低いとみなされることは少ない。GDPで言えば、ロシアは、ブラジル、イタリア、カナダよりも小さい11位(12位の韓国と同規模)で、日本のわずか3分の1しかないが、突出した軍事力が国力とみなされる。世界最大の国土(陸地)面積、有数の原油埋蔵量を誇っていることも、ロシアの国力の評価につながっている面もあるだろう。
ジオンの国力を考察する際にも、軍事力や資源の存在は欠かせない。次回はそれらに加えて、非物質的側面である文化・思想について考えてみたい。
鈴木卓実(すずき・たくみ)
たくみ総合研究所・代表。エコノミスト、睡眠健康指導士。ガンダムと同じ年齢(1979年生まれ)。新潟生まれ仙台育ち。仙台育英学園高等学校出身。地元での仮面浪人を経て、慶應義塾大学総合政策学部を卒業。2003年、日本銀行に入行後は、産業調査や金融機関モニタリング、統計作成等に従事。2018年より現職。経済家庭教師や各種セミナー(個人向け、企業向け)、経済・金融や健康リテラシー向上のための執筆、アドバイザーなどを通じて情報発信を行う。楽天証券トウシルにて「数字でわかる。経済ことはじめ」、東洋経済オンラインにて「あの統計の裏側」を連載。
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