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ガンバレ、荒木ちゃん! アシカのラブちゃんと今日も奮闘中ショボいけど、勝てます。 竹島水族館のアットホーム経営論(2/3 ページ)

» 2018年12月11日 08時30分 公開
[大宮冬洋ITmedia]

人間の先輩たちに話しづらいことはラブに話す

 専門学校2年生の夏には飼育員の実習を経験した荒木さん。就職先として志望したのは竹島水族館のみ。2016年4月に契約社員として無事に採用されたとき、理容室を営む両親にすぐに報告した。

phot 荒木さんの母校である三谷水産高校は竹島水族館から歩いて行ける距離にある。海と魚を愛する高校生が集う人気校だ

 「よかったね。あなたがやりたいようにやればいいのよ」

 両親は娘の門出を祝い、励ましてくれた。荒木さんは高校時代からの夢をかなえたのだ。

 しかし、少ない人員で年間40万人近くの客を満足させる竹島水族館は、新入社員を手取り足取り優しく教える職場ではない。館長の小林さんからアルバイトの澁谷さんを含めて7人しかいない飼育員の一人として働くことは想像以上のプレッシャーがかかった。小林さんが導入した、個人の責任を明確にした立候補式の「担当制」である単独制多担当持ちの人事制度(参考記事はこちらから)により、荒木さんは現在「深海魚以外の海水魚全般」をほぼ一人で担当しながら、アシカショーにも出演している。

 「私が担当している海水魚は300種類以上です。高校では海の環境や資源が専攻でしたし、専門学校で学んだのは犬や猫がメインでした。魚は好きですが知識はありません。就職をしてから、図鑑を見ながら勉強しているところです。私の下には澁谷くんがいます。それぞれの魚の飼育や展示を整理して教えるためには私自身がしっかりと分かっていなければなりません。難しいです……」

phot 三河湾に面した蒲郡市。小さな竹島水族館のメインは海水魚水槽だ

 野生育ちのアシカのラブ(推定8歳)との相性はいい。他の飼育員はたいてい一度は噛(か)まれているが、荒木さんは今のところ経験していない。「女の子」同士で打ち解けるものがあるのだろうか。

 「動物に対しての恐怖心はありません。ラブはかわいいですよ。でも、もしも噛まれたらびっくりしちゃうでしょうね」

 17年の秋から、竹島水族館は耐震補強工事に入った。休館中も魚の飼育とアシカショーのトレーニングは欠かせない。工事の音にラブがおびえ、不安定になり、トレーニングがうまくいかない日々が続いたときは辛かった。

 「どうしたらいいんだろうな、と悩みました。毎日、檻越しにでもラブに会いに行くようにしていましたが、喜んでくれていたのかは分かりません」

 公私で悩み事を抱えて自分のほうがラブにすがる時期もあった、と荒木さんは告白する。先輩たちには話しづらいことをラブに向かって「こんなことがあってさー」とつぶやいていたのだ。

 「誰かに黙って話を聞いてもらいたいときってありますよね。ラブは私の心を穏やかにしてくれるんです」

 動物好きの人であれば誰しも共感するエピソードだと思う。人は孤独では生きていけないが、愚痴を聞いてくれる相手がいつでも見つかるわけではない。愛情をかけて飼っている動物はかけがえのないパートナーになり得るのだ。

phot 食いしん坊のアラレフグ「ガッチャン」と向き合う荒木さん
phot 気持ち悪さを逆手にとって大人気となった「ウツボ軍団」の水槽

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