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「ドラクエ」前プロデューサーが考える組織論――切り開いた道は後進に譲り自らは荒野を歩くスクエニ取締役・齊藤陽介の仕事哲学【前編】(2/5 ページ)

» 2018年12月21日 08時30分 公開
[河嶌太郎ITmedia]

ゆりかごから墓場まで

――企業のトップが長年その地位を降りずに不祥事が起きている中、次世代や組織のことを考えて行動されたのは素晴らしいと思います。その後、どのように新しいプロデューサーを選んだのでしょうか。

 新しくプロデューサーに就任したのは、青山公士というプログラマー出身者なのです。青山は「ドラクエX」のプロデューサーに就任する前にも「テクニカルディレクター」という要職に就いており、一定の経験はありました。彼の長所は常にユーザー目線に立ちながら開発とゲームの両方をマルチタスクで見られるところです。

 ただ、プロデューサーという立場になると、ゆりかごから墓場までそのタイトルを見なければなりません。マーケティングやプロモーションにも責任を負わなければなりませんが、青山にはもちろんそのような経験はありませんでした。初めは彼を、開発の総責任者である「開発ラインプロデューサー」にして、外向きな業務の経験がある別な担当者と2枚看板で進めてもいいのでは、と話していたのです。ですが、結局は青山が「両方やらせてほしい」言ってきて、決断をしてくれたので、任せることにしたのです。

――「ゆりかごから墓場まで」という言葉がありましたが、そもそもゲームプロデューサーとはどんな仕事なのでしょうか。

 端的にいえば、プロデューサーというのは「作品」ではなく「商品」を作る人だと考えています。ディレクターはアートとしての「作品」を作り上げることに8割ぐらい考えていき、最後に売り物となる「商品」の部分を2割ぐらい考えるという意識を持てばいいと思っています。一方、プロデューサーは逆です。「商品」8、「作品」2ぐらいの意識で見る必要があるのです。

 だからプロデューサーは、「利益貢献をする」という目線に最初から立たないといけないのですが、ゲームのプロデュースって変な話、「一か八か」みたいなところがあるんですよ。というのも、現在のゲーム開発には数年単位で時間がかかります。プレイステーション4で出すような高画質高精細のゲームになると、特に時間がかかりますね。ということは、プロデューサーは、現在ではなく数年後のトレンドを予測して、それを当てなければいけないのです。

 「作品」として面白いものを作る、ということはある意味狙ってできる部分もありますし、当たり前にやらなければならないことだと思います。その一方で、少なくとも数年先に売れる「商品」を作り続けるということは、とても狙ってできるものではありません。もしそれがずっとできる人がいたら、それはマーケティングの域を超えた、天才というか超能力者なんじゃないかと思います(笑)。

――プロデューサーの育成というのは難しいのですね。

 昔のファミコンゲームや、1世代前のスマートフォンゲームのように、少人数かつ短期間で制作できるゲームが主流であれば、それはそれで経験は積めるでしょう。ですが、すぐに競争が苛烈になり、じっくりと腰を据えて経験を積めるような環境にはなりません。そう考えると、当社の「ドラクエ」や「ファイナルファンタジー」という人気タイトルは、若い人たちが経験を積み、次のステップに進むために勉強をする場として、実は最適だと考えています。もちろん、若い人なら誰でもいいという話ではなく、何らかのプロジェクト経験があり、さらにこれから会社を担っていく層という意味です。

phot PlayStation 4版「ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて」の主人公(c)2017 ARMOR PROJECT/BIRD STUDIO/SQUARE ENIX All Rights Reserved.
phot 「ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて」(c)2017 ARMOR PROJECT/BIRD STUDIO/SQUARE ENIX All Rights Reserved.

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