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ポスト平成の“ブラック企業”に悪用される? 「働き方改革関連法」に残る抜け穴罰則のユルさは相変わらず(3/4 ページ)

» 2018年12月29日 05時00分 公開
[濱口翔太郎ITmedia]

「高プロ」が悪用される心配はあまりない

――高い専門性を持ち、所得も高い労働者(年収1075万円以上)を労働時間の規制対象外とする「高度プロフェッショナル制度」がブラック企業に悪用される心配はないのでしょうか。ネット上などでは「長時間労働を助長するのでは」などと批判が集まっていますが……

新田: 意外かもしれませんが、私は高プロが悪用される心配はあまりしていません。私の周囲にいる、専門性も所得も高いビジネスパーソンは、成果を挙げていれば自由に働けるため、高プロや裁量労働制を歓迎している印象です。むしろ、高プロを批判しているのは、所得やスキルが“適用対象外”の人ではないでしょうか……。

photo 「高プロ」適用対象者の詳細(=厚生労働省が公表している資料より)

 万が一長時間労働を強いられても、本当に優秀な人は「この働き方はおかしい」と感じた場合にすぐ転職できる実力を備えているはずです。企業にとっても、優秀な人材の流出は大きな損失であるため、労働環境を改善して引き留めることが予測されます。高プロで使いつぶされる人材は出ないでしょうね。

「同一労働同一賃金」で生じる「産みの苦しみ」

――20年4月に施行される「同一労働同一賃金」制度は、本当に正社員と非正規社員の待遇格差を解消できるのでしょうか。マイナスの影響はないのでしょうか。

新田: 同一労働同一賃金は、欧米では一般的になっている原則ですが、日本企業になじむには時間がかかるでしょうね。欧米の企業は良くも悪くもドライ。個々人の職種やタスクが明確に分かれており、社員は自分に任された仕事が終わると帰っていいですし、逆に他の人の仕事を奪ってはいけない風潮があります。職務要件が明確に決まっているので、同じ仕事をしている人の待遇をそろえることは難しくないのです。

 逆に日本では、社員は“ファミリー”であることが求められ、手が空いていたら他の人の仕事を手伝うのが当たり前。年功序列の文化も根強く残っており、似たような仕事をしていても年次が上なら高い給料がもらえます。職務要件があいまいなので、同じ仕事をしている人の待遇をそろえるには、根本的な制度や体質を変える必要があります。

photo 「同一労働同一賃金」の詳細(=厚生労働省が公表している資料より)

 例えば、仕事内容に応じた等級制度を整備し直し、正規・非正規を問わず同額の基本給を支給。フルタイムで働ける正社員には100%のボーナスを出し、残業がない契約形態の従業員には70%のボーナスを出すといったように、賞与や手当、退職金で差をつける形が望ましいでしょう。

 マイナスの影響は、ポジションによっては給料が下がる社員も出てくるため、不満がたまるリスクがある点でしょうか。「全員が納得できる処遇差を出す」という産みの苦しみを乗り越えるまでは、人事・評価制度の設計担当者は大変になるでしょうね。

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